若杉光夫は意外と引き出しが多いのだ。清張モノの快作『危険な女』

基本情報

危険な女 ★★★
1959 スコープサイズ(モノクロ) 56分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:松本清張 脚本:原源一 撮影:井上莞 照明:鈴木貞雄 美術:岡田戸夢 音楽:三保敬太郎 監督:若杉光夫

感想

松本清張の有名な短編「地方紙を買う女」を民芸映画社で映画化し、二本立ての添え物として公開した中編映画だけど、民芸映画社の製作にしてはお金がかかっている感じがするのは、三保敬太郎のゴージャスなジャズナンバーのせいかも。若杉光夫渡辺宙明と組むことが多かったが、本作はノリノリで都会的なジャズスコアが映画の印象を形作っている。

■駅のホームで地方紙を買う女は、連載小説を読むためと言うが、その小説を描いている張本人の小説家は、その地方紙の写真に女の姿を発見すると妄想をたくましくして、事件の匂いを嗅ぎつけるが。。。というおなじみのお話。後にも円谷プロなどで映像化されました。

■主演の小説家が芦田伸介で、編集者の高友子と、珍しくコミカルな掛け合い演技を見せるし、いつも生真面目な若杉光夫も洒脱な味わいを演出するから意外意外。硬軟とりまぜてやればできる人なのだ。大映京都をパージされて拾われた大塚和と民芸映画社に義理があるからか(?)、メジャーには進出せず、後年は劇団民藝で演出家としても活躍したらしいけど、もっと大作映画を任せても良かったのにね。日活も冷たいなあ。

■最近まで知らなかったけど、渡辺美佐子はこの頃日活の準主役級のスターで、比較的大きな脇役で日活映画に出まくっている売れっ子だった。お姫様的な美しさではないけど、個性的な美人だし、芯のしっかりした女性を演じられて、しかも演技もしっかりしているので、助演としては使い勝手が良かったことだろう。ホントにこの頃の日活映画ではいい役をいっぱい演じているし、時々主演作がある。リアルタイムには「ムー」とか「ムー一族」のおかみさんなんだけど、その頃もきれいだったとはいえ、当然ながら日活時代はもっと瑞々しかったのだ。

■この頃のモノクロ撮影の解像度の高さは、当時の上映用プリントよりも、実はネガからリマスターしたときに再発見されることがあり、特に後年のカラー撮影では白く飛んでしまったり、ピントが外れてしまう、部屋の中から捉えた窓の外や街並み風景なども、特に高等テクニックを使ったわけでもないのにパンフォーカスに近い映像になっていて、ディテールが細密に表現される。後のカラーフィルムのほうが感度はよほど高いはずなのに、この頃のモノクロ映像の方が情報量が多いのは非常に不思議な現象だ。特に日活本体の姫田チームやロケとロケセットを基本とした民芸映画社の映画でモノクロ撮影の妙味が存分に味わえる。井上莞というキャメラマンはドキュメンタリー出身らしく、街並み街の情景ごと人物を捉えるのが実にうまいのだ。

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