北林谷栄のおばあちゃん演技は世界遺産レベルだ!『しろばんば』

基本情報

しろばんば ★★★
1962 スコープサイズ(白黒) 101分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:井上靖 脚本:木下惠介 撮影:山崎善弘 照明:熊谷秀夫 美術:松山崇 音楽:斎藤高順 監督:滝沢英輔

感想

井上靖の有名な自伝小説の第一部の映画化で、なんと脚本を木下惠介に頼んだという異色作。このあたりの人脈は明らかに民芸映画社の大塚和のもの。でも本作はそれなりに大作仕様で、日活本体の制作。ただ、完結しない原作小説の映画化ゆえに、映画の終盤はカタルシスに欠け、正直これで終わり?という印象。もう少し映画らしい改変があったほうが良かったと感じる。

■ただ、老巨匠の堂々たる演出ぶりと、きっちりと楷書で書いたようなエッジの立った精細なモノクロ撮影が絶品で、大映京都出身の熊谷秀夫による照明効果はきっちりと大映テイスト。山崎善弘はとにかく再開日活の初期からロマンポルノまで膨大な作品を撮りまくったキャメラマンで、初期のかっちりと古典的で完成度の高いスタイルから、後年には手持ちキャメラスタイルに移行してGS映画などの音楽映画を即興的に撮影し、ロマンポルノでは縦横無尽な長回しで一斉を風靡した(?)ことは有名だが、本作は古典的なスタイルで完成度が高く、代表作と呼んでもいいだろう。主人公たちの住む土蔵の二階の部屋の暗がりと窓からの明かり、梁のテカリ、見事な重厚感と質感で、まるで大映京都スタイルだ。

■原作者自身である少年が主役だが、女子大を出て帰郷し、小学校の教師になる本家のおばさんが芦川いづみで、これもかなりの好演。旧弊な田舎においては、開明的な女性職業人として登場するが、婚前交渉で身ごもり、後に夫の赴任先に旅立つが、敢えなく病死するという、お得意の佳人薄命路線の役柄。主人公にとっての女性は、おぬい婆さんとさき子に象徴される。実の父母は東京に離れ住み、芦田伸介渡辺美佐子が演じるが、どうしてもしっくりこないので、自然と女性像が老婆と若い娘に分裂してしまうのだ。少年の成長を描くというよりも、少年の目から見た大正初期の女達の生き方の物語と考えたほうが腑に落ちる。

■本家の曽祖父の妾で、離れの土蔵に住むおぬい婆さんが北林谷栄で、本家の人々の悪口をさんざん吐き散らかす台詞が実にリアルな人物造形で、日本のおばあさんを演じては世界一、世界遺産レベルのリアリズム演技の名人芸を見せる。まあ、ある意味実録なのでリアルなはずだが、それにしてもその実在感は卓越している。北林谷栄は同様のおばあさん演技をお箱としていたわけだが、最高峰の一つだろう。でも、おぬい婆さんが亡くなるところが本来はクライマックスに相応しいから、尻切れトンボに見えるのだな。ひょっとして、第二部も作るつもりだったのかもしれない。


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