単なる2時間サスペンスじゃないよ!落合正幸の傑作ホラー『微笑む人』

■2020年 原作:貫井徳郎 脚本:秦建日子 監督:落合正幸

■安住川で妻子を殺したエリートサラリーマン(松坂桃李)は、本を置く場所が欲しかったので二人を殺したと自白するが、本当の犯意は何だったのか?主婦ライター(尾野真千子)がその過去を探るうち、連続殺人の疑惑が持ち上がり。。。

■いわゆる原作ものの定番2時間サスペンスかとおもったけど、監督が落合正幸なので、単なるミステリーではないのでは?と念の為録画していたもの。やっと観ることができたけど、全く何の予備知識もなかったので、かなり驚いたし、終盤の展開には唸った。「サスペンスの常識を超えたラスト!!」の惹句は決して誇張ではなかった。。。

■原作小説を脚本家がかなり改変したようだが、それによってよりホラー寄りになったのではないか。貫井徳郎は人間の嫌な部分に歪な角度からメスを入れる、なかなか捻くれた人のようだけど、原作小説はおそらくホラーではないだろう。監督が落合正幸なので、そうした方向性で指示が出たのか、脚色がそんな路線だったので、落合正幸にオーダーが入ったのか、経緯は不明。でも、これは黒沢清レベルの真正ホラーで、落合正幸のキャリアの中でも白眉ではないだろうか。

■メインキャストの有名どころは松坂桃李尾野真千子生瀬勝久田中要次くらいで、あとの証言者たちは実に地味な配役。というのも多分狙いで、リアルに見えるから。実際、小心な銀行の後輩を演じた薬丸翔という人のリアリティには感心した。いい味だし、良い配役。やっくんの息子だよ!オノマチの旦那役の人も知らない人だけど、妙に旨いのは、落合監督の腕の冴えだよなあ。

尾野真千子を主役にして、彼女らしいコミカルな演技も積極的に押し出しながら、要所要所でお得意のホラー演出を見せて引き締める。このあたりの緩急の呼吸はさすがのベテランの味で、想像のなかの桃李くんと現実のオノマチの視線がかち合う場面などさすがに上手いし怖い。いまどきのドラマは大概シネマカメラで撮影してフィルムルックになっているけど、あえてフラットな照明かつ安っぽいビデオ撮りのルックで、いかにもホラー的な凝った照明は作っていないけど、音響効果でしっかり異様な空間を表現する。いつの間にか徐々に不協和音がせり上がっていたり。このあたりのテクニックはさすがに上手いし、実に安上がりで効果的。リッチにしてしまうと怖くないと知っているからだ。

■そして、ラストの警察署の廊下でのすれ違いシーンの怖さ。あれは名シーンだった。お話の収拾の仕方は往年のヒッチコック劇場のロバート・ブロックあたりの作品を思い出すのだけど、ラストシーンの惻々と迫る劇的な怖さは、なかなか本家でもお目にかかれないレベルだったので、ホントに驚きました。

落合正幸の脳裏にはきっとウルトラQの『悪魔っ子』があったはず。そうした謎解きもありうるような作品世界で、さすがに原作ものなので、勝手に超常現象まで踏み込むことはできないけど、監督の気分的にはきっとそのつもりで演出していると思う。裏設定ではこういう謎解きなんだよね、と怪奇にほくそ笑んでいたに違いない。
 

参考

貫井徳郎って、かなり変わった人らしい。着眼点が変。相当ひねくれてる。

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落合正幸はその筋のお仲間だと思います。真正の怪奇者。
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松坂桃李も、なかなか意欲的な若手だね。当然、コメディも得意。
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