徹底的に昭和風味なホラー活劇の快作!『”それ”がいる森』

基本情報

”それ”がいる森 ★★★
2022 スコープサイズ 107分 @イオンシネマ京都桂川(SC3)
脚本:ブラジリィー・アン・山田大石哲也 撮影:今井孝博 照明:水野研一 美術:塚本周作 音楽:坂本秀一 VFXプロデューサー:浅野秀二 VFXディレクター:横石淳 監督:中田秀夫

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感想

福島県某村の天神森付近でこどもが失踪する怪事件が頻発。森に棲息する熊の仕業ではないとわかった時、村のオレンジ農家の父子は、事件の真相の一端に触れるが、他の大人たちは誰も信じてくれない。。。

■という、いくらでもありそうなお話を昭和テイストな人間造形で綴る、令和っぽさも平成っぽさも皆無な、懐旧的怪奇活劇。でも、これがなかなかの快作で、意外に楽しい。どんな話かは、事前に2、3パターン思いつくので、そのうちのどれかなというのがお楽しみの核心だったのだけど、個人的には非常に好みのジャンルにグイグイ突っ込んでいくので、心のなかで快哉を叫びましたとさ。いいぞ、ワクワクするぞ。もっとやれ!

■監督の中田秀夫も、変わらず古典的な演出作法で、今風の手持ちのグラグラするキャメラワークとか細切れの編集などには全く無関心で、古典的なフィックスと滑るような移動撮影なので、ロートルにも非常に見やすくて良い。ただ、キャメラマンの腕はちょっと疑問で、デジタル撮影の色調が(意図的にせよ)変だし、肝心の天神森が単なる里山の雑木林にしか見えないのは映像造形力が足りない。まあ、そういう設定なので変に異世界感を醸し出しても不自然なんだけど。でもロケや照明効果でいくらでも、怪奇な叙情を造形できるはずなのに。撮影の今井孝博って、『共食い』とか『凶悪』とか『日本で一番悪い奴ら』も撮ってるベテランなんだよね。いや、それでも敢えて、コンラッド・ホール(@アウター・リミッツ)を見習えと言いたいですよ!

■基本的にリアル志向な作風で、主人公が棲む農家もロケセットもそこにあるほぼそのままなので、その冬枯れた貧相さも含めて隅々までリアルだし、また相当な低予算映画であることも事実だ。森の中で発見されるアレのモックアップにしても、『アウター・リミッツ』の作り物にも劣るレベルで、いやあ、なんだか時間軸が混乱しますね。これいつの映画だ?実際、80年代から90年代前半のB級ホラー映画に、ストップモーション・アニメーションの部分をあとでCG効果に差し替えました、みたいな作風なんですよ!観ればわかりますよ、ホントにそうなんだから。

■でも感心したのはクライマックスをカットバックで描ききったところで、一箇所に集約するものと思っていたら、同時並行で二箇所のクライマックスが描かれる。なかなかこの技巧は編集も含めて見事だと感じました。日本映画ではなかなか成功しない趣向ではないか。小日向文世も、期待通りの役どころで登場して、もう少し演技や演出にコクが欲しいところだけど、お約束どおりでやっぱり楽しいよね。

■そうそう、江口のりこの眉毛が異様に太いのも、90年代テイストというか、バブル時代風の演出じゃないですかね。あれは確実に狙ってますよね。ひょっとしてこの脚本って、90年代に書かれてオクラになっていたという設定ですか?あるいは裏設定で、映画の時代設定は実はバブル期の日本ということじゃないかな?(スマホが出る以上そうじゃないけどね。。。)

■以上、お話には触れられないので隔靴掻痒の感があるけど、これは映画館で大音響で観るのが正解なので、ぜひ映画館で観ましょう。明らかに相当な低予算映画だけど、音楽もなかなか工夫があるし、音響効果も当然立体的で、自宅で観るよりも映画館にプライオリティがあるからね!

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