僕もおじさんのように大暴れして、敵の首を斬る!少年、それでいいのか?『風とライオン』

基本情報

The Wind and the Lion ★★★
1975 スコープサイズ 120分 @NHKBS

感想

■1904年にモロッコで発生した、イスラムの首長ライズリによる米人イーデン母子誘拐事件の顛末をジョン・ミリアスが劇化した冒険映画。ロジータ・フォーブスの小説『リフ族の首長』の映画化らしい。米国は世界戦争も辞さずとの構えでノリノリで軍艦を派遣して、タンジールを制圧する。一方、誘拐された母子はライズリの男ぶりと高潔さに惚れて共感を寄せてゆく。母子を開放したライズリはドイツ軍に捕らえられるが、怒った母子は彼の救出に向かう。。。

■スペインロケで雄大な情景を生かしたアクション場面が結局は売り物で、西部劇でもあり、黒澤映画でもあるという、ジョン・ミリアスの趣味が横溢した映画。ショーン・コネリーに『隠し砦の三悪人』の三船の真似をさせたり、子供っぽいよね。

■でも映画としてはいま一つで、むしろ後の『コナン・ザ・グレート』の方が素朴に面白い。誘拐された少年がライズリのマチズモに感化されて俺もイスラムの首長になって敵の首を斬る!と盛り上がるあたりは面白いけど、市川森一帰ってきたウルトラマンの「ふるさと地球を去る」で描いたような深いテーマ性はない。やっぱり、ジョン・ミリアスって子供っぽいのかなあ。

■ライズリは孤高のライオンで、ルーズベルトイスラムの地にいっとき吹きあれた風に過ぎないと語られるが、このふたりは当然対面しないし、直接話しをするわけでもないので、両者の間に互いの琴線に触れる部分が描ききれていない。アメリカは森の孤独な覇者グリズリーなのだと、熊に仮託するルーズベルトの心象の描き方は面白いのだけど、孤独なリーダーはむしろ敵のリーダーと共感するものなのだと述懐するのは、なかなかスッキリとは理解しにくいよね。とにかく映画としては、いち部族の首長に過ぎないライズリが、なんでそこまでルーズベルトの意識の中で大きな位置を占めるのかという点が、すんなりと飲み込めないのが最大の弱点かな。

■クライマックスの大乱闘も、大味な西部劇のそれで、アクション演出も『コナン』のほうが洗練されていた気がする。あれやこれやと考え合わせると、シュワの『コナン・ザ・グレート』て、意外といい映画だったんだなあと思えてきたよ。

■ちなみに、音楽はジェリー・ゴールドスミスで、映画自体はほぼ忘れられた映画だけど、テーマ曲はけっこう有名らしい。実際、聴き応えがある。以下のCDでも日本フィルが演奏しているけど、オリジナルのサントラより出来が良いかもしれない。日本フィルのサントラ演奏には定評があるらしく、実際、かなりの名演がある。なんだか廉価版みたいなCDがいくつも発売されているみたいだけど、演奏も音質も良いので、実はお買い得なのだ。公立図書館などにも多分所蔵されていると思う。ヘンリー・マンシーニの『スペース・バンパイア』なんてサイコー!


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