基本情報
果しなき欲望 ★★★☆
1958 スコープサイズ(モノクロ) 101分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:藤原審爾 脚本:鈴木敏郎、今村昌平 撮影:姫田真佐久 照明:岩木保夫 美術:中村公彦 音楽:黛敏郎 特殊撮影:日活特殊技術部 監督:今村昌平
感想
■終戦のどさくさに紛れて、地下防空壕に大量のモルヒネを秘匿した男たちだが、十年ぶりに現地に集まると、一人多い。しかも現地は商店街に様変わりし、やむなく地下を掘り進んでお宝を入手することにし、商店街に不動産屋の看板を上げるが。。。
■今村昌平の代表作でもあり、大きく注目されるきっかけになった作品で、実際のところ思った以上にサービス精神旺盛だし、押しが強くて、娯楽映画のエッセンスが詰まった傑作だった。基本的に犯罪映画で、欲に駆られて集まった男女が疑心暗鬼の中でつぶしあい、最後に笑うのは誰か?というスタイルのお話。ちゃんとツイストも効いていて、ケチのつけようがない。
■長門裕之と中原早苗(また出た!)のカップルは出てくるが主演ではなく、群像劇になっている。殿山泰司、小沢昭一、加藤武、西村晃、渡辺美佐子の五人の腹のさぐりあいが面白さの源泉。もう顔ぶれだけで面白くなるよね、という個性のアンサンブル。男らしさ紛々で粗暴感100%の加藤武が精悍で素晴らしいし、屈折した役柄の小沢昭一の上手さも圧巻。ホントに正統派の演技者なんだなあ。
■正直なところ、後年のイマヘイ映画よりも引き締まっていて、無駄な要素がなく、できが良いと感じる。監督デビュー作の『盗まれた欲情』とともに、双璧じゃないか。あ、『にあんちゃん』を忘れてはいけない。異様な民俗学的興味や近親相姦幻想に取り憑かれる前の、このあたりの初期モノクロ映画がイマヘイのピークだと思う。
■しかし最終的に本作も主役は渡辺美佐子であり、誰も文句を言えない力技のスペクタクルになるから開いた口が塞がらない。イマヘイは弟分の浦山桐郎がとことん私小説的な作風だったのに比べると引き出しの多い娯楽職人で、スリラータッチやサスペンス演出も的確に駆使することができることがわかる。姫田チームの映像設計も、後年ほど厳密なリアリズム照明の作り込みではないが、ポイントに絞ってメリハリをきかせた照明効果は見事。照明の当て方ひとつでサスペンスを生んでしまう終盤の殺し合いの場面など、映画の照明効果の好見本だ。モノクロ映画って、照明の角度が変わるだけで、心理描写ができてしまうから凄いね。
■ロケかと思えばオープンセットに商店街を建てたらしく、しかも後半では再開発のクリアランスの立ち退きでどんどん潰してゆくし、ついには台風襲来で大嵐になるという、贅沢な撮影。そして、暴風雨の河原の夜間撮影の凄いスペクタクル。もちろん、特撮じゃないよ。中盤のシーンで遠景にうっすら見えていたボロい橋は、なんとクライマックスのための舞台装置だったのだ。なんという贅沢な視覚的伏線!
しかも、クライマックスの暴風雨のために、東宝と違って日活では良い機材がないので、わざわざ松竹からイブ・シャンピの『忘れえぬ慕情』のために導入した大型扇風機を借りてきたそうですよ。maricozy.hatenablog.jp