感想
■タフガイ裕次郎が風速40メートルの台風の中、ビルの工事現場で大暴れする日活活劇映画だが、実にこれ変なお話で、いろんな要素が煮え切らないまま終わる残念作。監督デビュー作『俺は待ってるぜ』でフランス映画のような妙に老成したニュアンスを表現していた蔵原惟繕だが、その後のフィルモグラフィーの中では疑問の残る映画が少なくなくて、本作もそのうちの一本。明らかに脚本が混乱している。
■そもそも裕次郎と北原三枝が血のつながらない兄妹という設定が全く肩透かし。それでいて、本作の最も楽しい見どころはこの二人がイチャイチャしているラブコメ場面というのだからバランスが変なのだ。そうした場面での裕次郎のまだ幼さが残る発声や身のこなしが、何よりも愉しいし、フランス帰りのシャンソン歌手として登場する渡辺美佐子の代理でステージに登った裕次郎が「山から来た男」というコミカルな歌をかっこよく披露するナイトクラブの場面は最高に傑作な場面なのだ。
■しかしメインストーリーが、裕次郎の親父、宇野重吉が自分の会社を裏切ってライバルの建設会社に重役待遇で引き抜かれる約束で自分の工事現場でサボタージュを指揮するという変な話で、リアリティも何もあったものではないし、宇野重吉の行動に微塵も同情できず、単なる間抜けな小悪人にしか見えないのは困る。リアルな面白さもないし、ケレンの楽しさもない。
■クライマックスは台風の直撃を受けた工事現場で、工事遅延を画策する暴漢たちと立ち回りを見せるのだが、これも全く面白い趣向ではなく冗長なだけ。実際の台風の暴風雨の中で撮影を敢行したらしいが、だからどうした?というレベルでちっとも見どころがない。文献によっては、暴風雨シーンを特撮で描いたという記述があるが、全くの嘘。すべて実物で撮影するという演出意図で、特撮シーンもないのだ。
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