森雅之に痺れる!社会派ノワールの佳作『第三の死角』

基本情報

第三の死角 ★★★☆
1959 スコープサイズ(モノクロ) 97分 @アマプラ
企画:芦田正蔵 原作:小島直記 脚本:直居欽哉、蔵原弓弧 撮影:藤岡粂信 照明:吉田協佐 美術:松山崇 音楽:佐藤勝 監督:蔵原惟繕

感想

■造船会社の乗っ取りを企む男(森雅之)の手先となる加治(葉山良二)と、渦中の会社で上昇志向で頑張る芳川(長門裕之)は、大学時代の同級生だった。乗っ取り事件の謀略を巡って、二人の男の人生と恋愛が軋み始める。

■という社会派ノワールで、全く知らなかったけど、かなりの秀作。蔵原惟繕は日活でノワール映画を何本か撮っていて、その筋では有名だが、あまり感心したことはなかった。でも、本作はさすがに唸りました。

■二人の男の対比がよく描かれているし、モーレツサラリーマンとして出世を目指す長門裕之もいつもながら上手いし、本作は主役の葉山良二がなかなかいい味を出している。ボクシングが強いけど、身を持ち崩して乗っ取り屋のボスの用心棒になり、見込まれてクラブの雇われ店主をやっているという、ハードボイルドな役柄で、蔵原監督は『俺は待ってるぜ』ではフランス映画を上手くコピーしていたが、本作はハリウッドのノワールを上手く翻案している。でも、葉山良二が演じると肉体的な屈強さと同時に、メロドラマ的な甘さのニュアンスが纏わってくるので、そこがユニークな味ですね。

■特に秀逸なのは乗っ取り屋のボスを知的に演じる森雅之で、後に東宝の『狙撃』でもスナイパーを演じたが、きっと本作を観た人が配役したのじゃないかな。それくらいに見事にカッコいい。何しろ台詞がよく書けているのが大きいが、やはり蔵原演出が冴えてますよ。悪役だけど、なにしろ知的ですからね。このジェントルな味わいはなかなか貴重なものです。

■ちなみに、脚本の蔵原弓狐とは、蔵原監督の奥さんで、元女優の宮城野由美子のこと。直居欽哉の脚本は男は上手いけど、女の描き方について補筆したらしい。つまり、稲垣美穂子や渡辺美佐子の台詞まわりでしょう。日活映画の顔だった渡辺美佐子は、ここでは長門裕之に裏切られて自殺する。そのことで出世街道に乗りかけていた長門は会社に見捨てられてしまう。

■稲垣美恵子は造船会社会長(東野英治郎)の娘で、二人の男の間でその人生を転調させる奔放なお嬢さんなんだけど、さすがに苦しい。本来なら浅丘ルリ子くらいがハマるところだけど、B面映画なので、そこは我慢ってところか。惜しいなあ。終盤は会社乗っ取りのために彼女が持つ株券をどうやって入手するかという話になって、なんだか大映の黒いシリーズみたい。でも、ラストのアクションからの電話シーンの流れは実に素晴らしくて、泣かせる。大映だとここまでメロドラマにはしないからなあ。

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