感想
■なんというか、千田是也ですよ。究極的にそれしかないでしょう。でも実は、かなりよくできた洗練された映画で、まるでハリウッド映画の全盛期を思わせるから、絶頂期の中平康は確かに凄い。
■千田是也が銀座で画廊をオープンするから、こけら落としで発表会を開催させようと、その娘(左幸子)たち若い芸術家集団があれこれ画策するというお話で、前衛的な芸術家集団に安井昌二、葉山良二、波多野憲、中原早苗、天本英世らがいるというわけ。千田是也の店には化粧っ気がなくツンケンした渡辺美佐子が勤めていて、ボロボロの服に虱を湧かしている芸術家の卵の安井昌二に、君は美しいねと言われて急に女に目覚める。
■基本的に群像劇であり、軽妙なスケッチ風の作品だが、千田是也には若い頃別れた女の記憶が忘れがたく、最後には娘の彼氏になった葉山良二が別れた女の子どもとわかる。さらに彼には可憐な妹があって、別れた女に瓜二つであったため、是也は惑乱することになる。この映画のクライマックスは、本当に千田是也が眠っている芦川いづみにこっそりチュ~する場面なのだ!
■千田是也が映画で演じると、大体がむっつりした無表情でボソボソしゃべるスタイルなので、新劇界の理論派巨人は映画はやる気がなくて、アルバイトなんだろうと言われるのだが、では舞台ではちゃんと声を張って演じてたのかどうかは、知るヨシがない。案外舞台でもあの調子だったりするのかもしれない。だって俳優座ではリアリズム演技を理想とし、小芝居をするなと教えるみたいだから。でも、本作ではちゃんと映画的な演技や小芝居も披露しますよ。なにしろカットが細かいから瞬間の顔面演技なんかも演じなければ成立しないから。それはそれで、内心は面白がって演じているのではないかと推察するのだが。
■モノクロスタンダードの美しさも特筆もので、撮影は先日亡くなった山崎善弘。このキャメラマンは低予算のロマンポルノもいっぱい撮っているし、その後の邦画メジャーでも活躍した多作の人だけど、本作は代表作だろうなあ。松山崇の美術セットもスケールは小さいけど、ポイントを絞った豪華なものだし、岩木保夫のかっちりした照明も文句なしなので、まあ姫田真佐久が撮ってもこれ以上とはいかないだろう。山崎善弘も姫田真佐久もやけにキャリアが長くて、多作家なのでなかなか全貌が掴めないけどね。最近のキャメラマンなんて、下手すると一本立ちしてから10年くらいで名前を見なくなるからなあ。
参考
映画における千田是也をどう捉えるかが、昔から邦画ファンにとっての踏み絵だった!?
maricozy.hatenablog.jp
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