松岡茉優が琉球空手で沖縄問題をぶっ飛ばす!女たちが対米従属の闇を告発する、驚きの野心作『連続ドラマW フェンス』(ネタバレ大盛)

基本情報

2023 連続ドラマW FENCE(全5話) ★★★★
プロデューサー:高江洲義貴、北野拓 脚本:野木亜紀子 撮影:高木風太、水本洋平 照明:宗賢次郎 美術:富田麻友美 VFXスーパーバイザー:田中貴志 監督:松本佳奈

あらすじ

■#1「ユクサー」(うそつき)⇨キャバ嬢兼ライターのキー/別名バウ子(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の取材に沖縄に飛ぶが、当事者の桜(宮本エリアナ)は未成年の被害者琉那(比嘉奈菜子)を庇って被害者を詐称していた。

■#2「アメジョ」⇨キーは犯人の蛇柄Tシャツの男を探るが、彼女もまた沖縄出身のミックスだった。自動車修理工場で目指す米兵ジェイソンを発見したキーは米軍ゲート前で男に得意の沖縄空手で殴りかかる。

■#3「ヒヌカン」(火の神)⇨犯人と思われた男ジェイソンは、犯行時間に液体大麻の密輸を行っていて、犯人ではなかった。ジェイソンは米軍により本国に送還され、結婚予定だった沖縄の娘はミックス(ハーフ?)の子を出産する。

■#4「マブイ」(魂)⇨同じ犯人による性的暴行を受けたという別の女性が登場。週刊誌の編集長(光石研)が沖縄にやってきてキーのネジを巻く。琉那は精神科医新垣結衣)に救われ、キーも自らを呪縛する幼少期のトラウマから解放され、自らが囮になって真犯人をおびき寄せようとする。

■#5「ヌチ」(命)⇨真犯人の米兵を突き止めるが、日米地位協定の制約で任意同行も難航するところ、上司の英断で身柄確保に成功する。だが、琉那を襲ったのはその米兵ではなかった。もう一人のレイプ犯(普天間工事で儲かるゼネコン社員!)を突き止めたキーは、シーサーで痛撃を食らわす。これは”沖縄問題”ではなく、日本の問題だ、と言い捨てる。

総括

■本作はなぜかWOWOWNHKの共作。NHKのドラマ製作部門のNHKエンタープライズ所属の北野拓Pが絡んでいるので、NHKの『フェイクニュース』の発展企画とも言える。北野拓はもともと報道畑出身なので、時事ネタが好きなのだ。光石研の登場も『フェイクニュース』のラインだね。脚本は野木亜紀子で、監督は松本佳奈。現在放映中の『団地のふたり』をみるとおり、松本佳奈は基本的に対立関係や緊張感とは無縁な、もっとゆるふわなタッチの人なのに、どんな経緯で起用されたのか?しかし、そんな心配も杞憂に終わり、立派な社会派ドラマになりました。しかも、なかなか誰も手を出せなかったテーマにかなり真正面から踏み込んだだけで、歴史に残る。ある意味、やったモン勝ちの、企画勝負の世界だ。

■沖縄の基地問題は昔も今現在もずっとホットな政治問題なので、NHKでもストレートにはドラマ化できないらしい。過去の沖縄戦の記憶はドキュメンタリーでいくらでも作れるけどな。北野拓は本気で、日米地位協定、日米合同委員会、普天間基地埋め立て問題、PFOS、基地利権、機動隊員の差別発言、ロシアにウクライナ湾岸戦争PTSDと、時事的なタームを全部ぶち込む。それらは北野Pからのオーダーだったろう。

日米地位協定日本国憲法の上に位置するとか、青木宗高の警官がさらっと言い捨てるんだけど、勿体ないなあ。確かに、沖縄では共通認識になっているかもしれないけど、そのあたりは、ヤマトンチュにもっと説明してあげないと、若い人には理解が追いつかないのではないか。実際、自分自身そのことを認識したのは、つい先日のことだ。ただ、あまりそこに踏み込むといろんな政治的なハレーションが生じるから、敢えてさらっと流しているかもしれない。特定の単語が台詞に登場するのは見逃すけど、詳しくは突っ込むなよ!というのがギリギリの防衛ラインなのかも。さすがに、密約問題については言及していないけど。おそらく、以下のような著作は話題になったし入手しやすいので参照されているだろう。

■起承転結の転にあたる4話からの展開がカオスで面白くて、キーが久々に電話した母親に、母さん精神科医にかかったことある?と聞いて、中村優子がブチ切れる場面は、なかなかリアルで味わい深い傑作場面。当然そうなるわなあ。

■本作は、当然ながらかなりリアル志向で、役者もリアル志向の配役だし、演出家もキレイには撮らない。もっと見栄えがする配役もありうるが、敢えて地味なニュアンスで揃えたはずだ。最近、出突っ張りのベテラン中村優子なんか、生活に疲れたやつれ方がリアルそのものだし、特別出演の新垣結衣ですら、結構おばちゃんぽく垢抜けない感じで撮る。そこに、監督の強いこだわりを感じる。

松岡茉優はもともと美人女優タイプではなくて、ある意味ふつうにいそうな存在感を良い塩梅に演じてくれる職人肌(?)の女優で、若干中性的な感じがドライで良い。例えば河合優実みたいな巫女的な天性の女優タイプとは異なるだろう。故に重宝されて売れっ子だ。宮本エリアナだって、本来モデルなんだけど、衣装を含めて垢抜けない風貌にしている。散々ひどい目にあって生きてきた琉那(比嘉奈菜子)だって、ほぼ逆光か顔に影がさしていて、最後までキレイには撮ってもらえない。(最後にやっと順光で撮られる)

■たぶんこうした素材なら、櫻井武晴なんかにオーダーすれば、かなりハードな社会派捜査活劇になったはずだが、本作はハードルの高い沖縄女性の性的暴行事件をナイーブに追求するところにいちばんの眼目があり、故に女性脚本家に女性監督がセットされたのだろう。米兵による性的暴行は、もちろん日本と米国の関係の隠喩になっていて、だから本作ではそこを執拗に穿る。性的暴行は魂を踏みにじり消えない疵を与えることだ。そのために主演者たちのお姉さんにあたる新垣結衣精神科医として登場して、心の問題としての意味を解きほぐして語る。なので、特別出演ながら、新垣結衣は非常に重要な役どころなのだ。ただ、こうした役柄は最近中村倫也が『Shrink』で圧倒的なカリスマ性で精神科医の決定版を演じてしまったので、どうしても比べてしまうわなあ。
maricozy.hatenablog.jp

■世の中の仕組みが間違っているから、正しいことができないんだよとか、”沖縄の問題”じゃなくて、日本の問題ですとか、最終回でテーマを端的に台詞で言ってしまうんだけど、社会派ドラマだから良いよ。それで。言わないとわからないからね。

■ちなみに青木崇高が、かなりだらしない沖縄の警官を演じてリアリティがあるし、中年男のたるみ感を隠さず、いい味だけど、捜査情報がプライベートで彼女(キー)にダダ漏れというのは、さすがにまずくないか?沖縄防衛局職員(国家公務員)が週刊誌の編集長と軍用地の値段について私的に情報交換してたりして、明らかに倫理規定違反で懲戒対象なんだけど、大丈夫なのか?沖縄の公務員は実際こんなにゆるゆるという、制作陣の取材結果なのか?ホントに大丈夫??

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参考

maricozy.hatenablog.jp
NHKでの北野拓とのコンビ作で、意欲作だった。
maricozy.hatenablog.jp
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これも野木亜紀子なんだよなあ。複雑。
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宇野重吉は沖縄で死んだ(殺された)。まだ様々な密約の存在も証明されていなかった時代。
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連続ドラマWは、なかなか骨のあるドラマを提供してくれます。おっさんには嬉しい、ニクイ枠です。
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TBS日曜劇場で『運命の人』もありました。かなり良かった記憶がある。
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