地獄の極道カラオケ戦争勃発!でもカラオケ行きたい!『カラオケ行こ!』(感想/レビュー)

基本情報

カラオケ行こ! ★★★
2024 スコープサイズ 107分 @イオンシネマ京都桂川(SC1)
原作:和山やま 脚本:野木亜紀子 撮影:柳島克己 照明:根本伸一 美術:倉本愛子 音楽:世武裕子 VFXプロデューサー:浅野秀二 監督:山下敦弘

感想

■純真な合唱部の中学生男子(齋藤潤)に目をつけたイケメンやくざ(綾野剛)が、地獄の組長杯カラオケ大会の歌唱指南を頼み込むが。。。

■ホントにそんな話なので呆気にとられるけど、なにしろ脚本が野木亜紀子で、監督が山下敦弘なので、ただの漫画映画化企画ではないのだ。ないはず。。。きっとないよね。

■実際はかなり漫画チックなお話で、特にヤクザをどう捉えるかがネックになる企画なんだけど、そこは完全にファンタジー。そこをリアルに捉えると成立しない原作だし、企画だから、大人の観客には物足りない。というか、違和感が残る。ヤクザ舐めんなよ(?)

■でも主役の少年に齋藤潤を据えたところでいろんな瑕疵が一気にぶっ飛んだし、ヤクザに綾野剛が扮したところも、不思議な化学反応をもたらした。齋藤潤はもう文句なしに可愛いので、誰が観てもキュンキュンする。一方の綾野剛は、こうしてみるとけっこういい年なんだなと感じるところだが、それは男の勲章。明らかにこの二人のBL風味を意識しているし、それどころか合唱部の副部長の和田くん(後聖人)も部長の齋藤くんにぞっこんなのだ。監督も、撮ってみたら和田くんのキャラが立ってしまったので驚いたらしい。もともとそんな意図ではなかったらしいけど、リアルな男子中学生の焦燥感をセンシティブに表現してしまった。

山下敦弘はそもそも大阪芸大中島貞夫の教え子だったので、ヤクザといえば、中島貞夫が描いたあれやこれやが当然のこと脳裏をよぎるわけだけど、わかったうえで全部捨象して、原作漫画どおりに(?)スカスカのヤクザ像を描いて見せる。でも綾野剛が演じるから妙な色気が漏れてくるわけで、当然BL風味になる。否応なくね。

おそらく、映画の作者としてはヤクザの存在を、民俗学的な辺縁の民、マレビトとか妖怪とか鬼とか、そういった種類の、日常世界とあの世との境目に棲む、そして常に滅びの運命を纏った存在として、象徴的な意味合いで描こうとしているのだろう。だから本作のヤクザを鬼に置き換えると、そのまま昔話とか童話になるはず(良い方に、穿ち過ぎ?)。

■たとえばこんなおとぎ話があってもおかしくない。。。

むかしむかし、あるところに歌の好きな農家の少年がおりました。いつもいい声で歌いながら田畑を耕していたところ、ある日、山から鬼が降りてきて、こう言いました。「お前、歌が上手いな。ずっと山で聞いていたんだ。実はこんど俺たち鬼の仲間で歌合戦があるんだが、歌は苦手で困っていたんだ。お前、俺に歌を教えてくれないか?」村では山に住む鬼とは関わるなと言われているし、怖い顔の鬼なので、はじめ少年は嫌でしたが、付き合ってみると案外気のいい鬼で、まだ若くて未熟な自分だけど歌の師匠として扱ってくれるので、すっかり嬉しくなってきました。里におりてくる気の荒いはぐれ鬼からは守ってくれるし、農作業も手伝ってくれるし、なにしろ長く生きているので、山のことも里のこともいろんな出来事や知恵を知っていて話して聞かせてくれると、少年は自分の知っている村や田畑や野山はほんのわずかで、世の中には知らない世界が沢山あることを知るのでした。そして鬼と人は外見の違いだけで、心の中はあまり変わらないのではないかとすら感じるのでした。(中略)
ところが、藩の政策で海辺の埋め立て工事が始まると、村からも農民たちが労役に駆り出されるし、山から大量の土砂や木材を切り出すようになり、いつしかあの気のいい鬼たちの姿をみることはなくなりました。今では村人たちも、鬼なんて最初からいなかったんだよという者もいます。でも少年だけは、彼らが確かにそこにいて、楽しげに歌ったり踊ったりしていた光景を一生忘れまいと思いました。鬼たちを見なくなったことは少し寂しいけど、自分の子どもや孫たちに、あの鬼たちの愉快な姿をどんなふうに話して聞かせようかと思うと、妙にわくわくしてくるのでした。おしまい。
「日本の民話:鬼と歌った男」より抜粋

■秀逸なのは脇役の布陣で、綾野剛のあかんたれな親父が『1秒先の彼』に続いて加藤雅也(なんか最近、毎週見てる気がする)で、あとはおばさん勢の顔ぶれに妙味がある。少年の母親が坂井真紀だったことには最後まで気づかなかった。どこに出てたかなあ?と素朴に感じていたのだ!綾野剛のオカンがヒコロヒーという芸人で、これも素材の面白みを生かしたいい配役。顔つき一発勝負という感じだけど、それでいいのだ!配役で演出の9割は決まると市川崑も言っていた。あ、そうそう合唱部の副顧問のももちゃん先生をリアルに演じる芳根京子というひと、初めて認識したけど、良い個性だし、感心した。しかもこれ映画オリジナルのキャラらしい。ここは大成功要素だった。

■正直なところ、わざわざ野木亜紀子が書くほどの企画じゃなくて、もっと若手でもいいと思うけど、結果的に悪くない青春映画になった。ヤクザがリアルじゃないから、リアルに胸に刺さる青春映画にはならなかったけど、十分にウェルメイドな映画。さいきんの山下敦弘はそんな路線を狙っているのだな。『1秒先の彼』も傑作とか佳作とかではないけど、ウェルメイドな小品だった。


www.youtube.com


この歌がいわば主題歌なんだけど、とても良いのだ。

www.youtube.com


© 1998-2024 まり☆こうじ