#1(演出:若松節朗)#2(演出:村谷嘉則)
■以前から観たかった2021年の『トッカイ』がアマプラに入っていたので、一気見します!WOWOW製作による、原作:清武英利の一連の実録シリーズですね。どれも面白いので、期待していたんですよ。
■大蔵省の肝いりで設立された政府系ノンバンク・住専は、バブル期に銀行が貸し渋る不良案件を積極的に吸収して貸出金額を拡大するが、1990年に大蔵省が総量規制を通達したことから新規の貸出を封じられ、バブルが崩壊すると、既存の貸付部分が一気に不良債権化する。政府は住専に出資していた、票田である農協系金融機関を救うため、住専を倒産させ、残存社員を吸収して住宅金融債権管理機構を設立しようとする。
■というところまでを、要領よくわかりやすく見せる。脚本はベテランの戸田山雅司だから、当然ですね。ただ、構成と編集には疑問が残り、#1と#2ではクライマックスに同じシーンを繰り返し使用しているので、普通に考えて違和感がある。何か事情があったのだろうか?お話の素材が素材だけに、なにかデリケートな問題があったのかもしれない。
■京都市が導入し、1985年から1988年まで続いた古都税に対する反対闘争を指導する謎の不動産業者(もちろん実在する。元京都仏教会顧問の西山正彦)が仲村トオルで、相変わらず説得力もリアリティも感じられない。仲村トオルはデビュー作から映画もテレビも舞台もずっと断続的に見ているし、軽妙な人間像を演じると絶妙にうまいけど、こういうアクの強い役柄は全くあわないのだ。単純にキャスティングのミス。
■一方で、浪速の借金王(末野興産の社長、末野謙一)を演じるのがイッセー尾形で、まあこれもベストとは言えないけど、独特の芸で見せる。普通に関西の俳優を使えばいい気もするけど。生瀬勝久なんかピッタリだけどね。
■団時朗とか渡辺裕之など、まだまだ元気そうなのに、いまや故人ですよ。たった3年前の作品なのに。。。橋爪功にしろ、仲村トオルにしろ、お話の舞台が、ほん近所なので、観ていてヒヤヒヤしますね!
#3(演出:若松節朗)
■大阪特命班の柴崎班長(伊藤英明)は、母体行からの出向組だが、会社では病気休職扱いになっていることを知る。さらに、住管機構の内部レポートを提出するように命じられ、利益相反・責務相反に苛まれる。一方、東坊社長(橋爪功)は15年どころかその半分で1円残らず一斉回収するとぶち上げる。担保物件を不法占拠するヤクザとの対決が迫る。
■美人秘書(太田莉菜)と夜の寺で座禅に励む(エッチな意味じゃなくて)仲村トオルは、新たにガソリンスタンドを展開する事業に着手する。昔あった、アルフレックスのことですね。
■住専の母体行、メガバンクも同じ債務者から回収しないといけないので、住管機構からいち早く情報を吸い上げて取り逃さないように画策するわけですね。さすがに、えげつない金融業界の舞台裏でした。
#4(演出:村谷嘉則)
■「やくざビル」を保全回収せよ!債務者から巻き上げ、やくざが不法占拠するビルのどの部屋に誰が住んでいるのかを警察も感心する現地調査で明らかにすると、住管機構は警察、裁判所とともに強制執行に向かう。そのなかで、柴崎班長は、出身行を裏切り、これがおれの回収道だ!と見栄を切る。
■いかにも、テレビドラマ的に受けそうな型をはめてきましたね。安易にステロタイプな型にはめるのはいかがなものかと思いますがね。もっと自由に流れを作ればいいのに。地上波じゃないんだから!
#5(演出:村谷嘉則)
■特命班の岩永(矢島健一)が旧住専時代の融資に関して詐欺の疑いで警察の聴取を受けるが、当該企業はフロント企業で、会社の謀略にハメられたことを特命班の仲間が突き止めて上申書を提出する。
■この案件の対応を巡って、柴崎班長(伊藤英明)と反りが合わない塚野副長(萩原聖人)がなんとか協力体制を構築するまでを描く。萩原聖人が出身行から極秘情報をとってくるわけですね。そして次回から、いよいよ浪速の借金王金丸(末野興産の社長、末野謙一)との全面対決が始まり、その後に、仲村トオルが出てくるという段取りかな?
#6(演出:若松節朗)
■浪速の借金王、金丸が15億円の補社基金を積んで釈放されると、特命班は最大の債務者の金丸をターゲットとする。2000億円以上を焦げ付かせ、1000億円以上の隠し資産があると見込まれたが、その隠し場所が分からない。預金保険機構のもつ執行権限を借りて情報収集を進めるが、海外に資産を移転した形跡もなく、性格的に身近に現金のまま秘蔵していると見込むが、私邸の庭の池に隠したという情報が。。。
■やっぱり、若松節朗の演出は、人の動かし方がうまいような気がするなあ。ついに大物の金丸を追い詰めようとするが、敵は一枚上手なのだった。
#7(演出:村谷嘉則)
■1998年、空振りに終わった金丸の隠し資産の調査だが、その後の調べで、現金を割引債に化体させて物理的なボリュームを圧縮した形跡を発見する。割引債の動きを調べると、金丸の事業発祥の地となった元色街の一角に集められているらしい。さらに、金丸は容積率を超えた違法建築物を建てる癖があり、過去に逮捕歴もあることから、隠し財産の目星がついた!
■ということで、意外とあっさりと金丸事件は終了しましたね。隠し資産の探求のプロセスとか、割引債の悪用法とか、なかなか経済犯罪として興味深いところですね。まあ、基本的に実話ですが。あのビル、実はもう1フロアあるんじゃないか?とか、なかなか人を食った話で良いです。実話でしょうけど。凄いな。。。
■山一證券は自主廃業し(『しんがり』の平田満の再現映像が流れます!)、2年の年季明けでやっと戻れると思った矢先、塚野(萩原聖人)の出身行の産銀(長銀がモデル)も破綻してしまう!ぎゃー
■大蔵省(佐野史郎)は住管機構を整理回収銀行と合併させて国の管理下におく改正案を用意し、政府官房長官(団時朗)は東坊社長がさいきん増長しているから牽制するために同意する。佐野史郎と団時朗の悪巧みって、なんとも乙なものです。団時朗も、まだまだ元気そうなのになあ。官僚関係は佐野史郎、政府関係は団時朗と、このあたりは事実を大幅に簡略化、単純化してますね。団時朗の演技も、ちょっと悪代官過ぎですけど。
#8(演出:若松節朗)
■出身行が破綻して、塚野(萩原聖人)は自暴自棄になる。一方、大蔵省の住管機構と整理回収銀行を合併させて、特殊法人化する計画を、東坊社長(橋爪功)は撤回させ、株式会社化するよう修正させる。民間のノウハウなくして一斉回収は不可能との判断だ。塚野は旧住専出身の仲間を見下していたが、自分も同じ境遇に置かれて、生き直すことを決意する。住専の破綻と、6800億円の税金による資金注入の責任は、銀行や政府にもあるとぶち上げた東坊社長はあおば銀行(住友銀行がモデル)に損害賠償請求を行うと。柴崎(伊藤英明)は辞表を提出し、徹底抗戦を誓う。だが、大蔵省と政府筋では国民の東坊社長人気もそろそろピークアウトするだろうと、次の一手を図っていた。
■バブル期には押し付けるように巨額融資を行い、バブルが破綻すると、貸し剥がしや貸し渋りに転ずる金融機関の無節操ぶりが批判される。三方よしの商売人精神などどこ吹く風。金が湧くように溢れる時代には、倫理観や公共心など簡単に麻痺して、吹き飛んでしまう。それが人間。それが組織。えげつない話ですね。
■柴崎の妻が中村ゆりで、話には絡まないけど、無意味に可愛い嫁さんで、一服の清涼剤で儲け役。リアルに、おらんけどね、あんな人。完全にファンタジーだけど。あおば銀行の頭取は渡辺裕之で、これも元気そうなのに、今はもういない。。。巨大金融機関が次々と破綻し、終身雇用制の終焉も意識された最初の時代、それでも今よりはまだ良かったのかもと、当時を知る身には思えなくもない。
#9(演出: 佐藤さやか)
■葉山(中山優馬)は社長に約束した24億円の回収のため、不動産業界ではおなじみだが、厳密には脱法行為である強引な取引をまとめる。住管機構は合併により整理回収機構に衣替えし、特命班は不良債権特別回収部=トッカイになる。同時に次の大物としてロックオンしたのが、京都の怪商仁科(仲村トオル)だが、すべての資産を海外に飛ばし手が出せない。だが、資金の流れを探ると、京都のガソリンスタンド会社がその窓口となっているらしい。
■葉山が、債権回収を焦るあまり、社長に詳しく説明せずに、脱法的なスキーム(不動産業界ではよくある手法だそうです)を適用して、土地の売却案件をまとめてしまうけど、これが後に明らかになり社長の引責につながるのだろう。ああ、いちばん嫌なパターンだなあ。
■古都税闘争の際に京都仏教界の指南役になり、古都税導入に反対するかとおもえば、一方で選挙前の京都市長に古都税の件はなんとかしますよと二枚舌を使って、選挙中にその交渉内容を暴露して追い落とすという、なぞの人物、仁科(モデルは西山正彦)を仲村トオルが無意味にかっこよく演じる。カッコよすぎでしょう。ホントに何がしたいのか掴みどころのない怪人物なんだけど、京都では結構よくある話で、ホントに闇が深い。登場する銀行はなぜか胡散臭い案件ではよく名が出るあそこだし、こわいこわい。
#10(演出: 村谷嘉則)
■東坊は母体行への損害賠償訴訟は体力的に不利と見てあおば銀行だけに限定することを決め、破綻した地方銀行が支えていた地方企業の再生に注力しようと考える。だが、東坊社長は地検から聴取を受けることに。葉山が担当した任意売却案件で、10億円の詐欺行為があったとみなしたのだ。
■いよいよ東坊社長に追い落としの風が吹き始める。一時期は、首相候補ともいわれるほど人気が高かったわけだが、当然権力者たちの間では反発も多く、そうなるとお金に関する間違いで足を引っ張ろうとするのは定番の手法ですね。悪徳不動産会社が隠し録音テープを地検特捜部に提出するということだけど、まあ、いずれどこかから同じようなスキャンダルが表に出たのだろう。ああ、怖い怖い。
■京都の怪商・仁科の隠し資産の件は京都のトンネル会社の件は突き止めたけど、そこまでで、まだ進展しない。結構最後まで引っ張るんだね。
#11(演出:若松節朗)
■債権回収業務に詐欺行為があったとして東坊社長は地検特捜部の取り調べを受けるが、告発した不動産業者自体が札付きの不良債務者でもあり、不起訴に終わる。だが、東坊は急死、トッカイは仁科の資産還流ルートを探り、関連の石油会社の社長を突破口にして、強制執行妨害で仁科を逮捕させる。
■収監中の金丸(イッセー尾形)と東坊(橋爪功)が面会する場面は、この二人の曲者演技の掛け合いを見たいよねという、それだけのために設定されたものだろう。実際とは異なり、東坊は不起訴後にあっさり死亡し、最終的に仁科が落とせるかどうかが、最後の課題になった。
■お話自体は、勤め人には誰しも思い当たるところがあるから、切実すぎて、観ていて息苦しくなってくるのだが、唯一の息抜きとして伊藤英明の妻役が中村ゆりが出てきて、なぜかいつも夜中にパンを作っている。絵に書いたような可愛い妻を演じるのだが、あのパンには絶対なにかヤバいものが入っているに違いないと思うぞ。このドラマ観ている人は、みんなそう感じたに違いないけど。
■実際の整理回収機構は、雇われ弁護士をたくさん抱えたものの、一般社員との間にいろいろと軋轢もあったらしいし、社長への怨嗟も渦巻いていたらしい。まあ、これもどこの会社でもあることだし、現在のコンプライアンス基準で見れば、債権回収作業も問題だらけだったと思うけど。
#最終話(演出:若松節朗)
■仁科の京都の石油卸会社を経由したタックスヘイブンとの46億円の還流ルートは把握できたが、それは最悪没収されても構わない見せ金に過ぎず、隠し資産の本丸は香港の銀行に所有する600億円だと掴む。だが、どうやって差し押さえが可能なのか。そこに英国系法体系に独特の「マレーヴァ型資産凍結命令」(マレーヴァ差止とも)が使えるかもという情報が。仁科もそのことは承知のようだが、柴崎たちは香港に飛ぶ。。。
総評
■ついに完結をみたトッカイだけど、ドラマとしての妙味は少なくて、実際にあった呆気にとられる事件の数々が興味深くて観ていた感じだ。最終話では、太田莉菜が演じる仁科の秘書の描き方にドラマの妙味があり、女性総合職第一号として銀行に採用されたが、一般事務職員と同じ仕事で物足りずに仁科の会社に転職し、仁科と対等なビジネスパートナーとなるべく努力したが、結局は仁科から単なる手伝いだから、君は何も責任はないよと切られる(思いやりでもあるのだが)、その皮肉な境遇に批評精神が感じられる。実は太田莉菜は儲け役だったのだ。
■主演が伊藤英明ということもあり、どうしてマッチョな感じになってしまうのは、功罪あり、ドラマ的に単調になる。伊藤英明はもっとノーテンキなマッチョキャラを演じて欲しいと個人的には思うのだが、社長を演じた橋爪功は当然ながら貫禄の演技で、これも本当はもっとひねくれたシニカルな人間を演じてほしいところだけど、まあ、いまこうした役を演じられる役者が、いまやいないのだ。
■官房長官と大蔵省の悪巧みメンバーが、団時朗、佐野史郎、堀内正美というのは、明らかに狙った配役で、さぞかし現場は楽しかっただろうな。団時朗は晩年の代表作だろうね。地検特捜部に囁いて中坊社長を逮捕させたり、官邸のやりかたがあまりに汚いので途中からなかば呆れ気味な銀行局長が佐野史郎で、これも好演でしたね。
■ただ、ドラマそのものよりも、そのモデルになった実際の事件や人物に興味が向いてしまう憾みはあり、実際、仲村トオルのモデルになった人物て、どうしてそんなことが可能だったのか、興味が尽きない。