キャリアは踊ってろ。現ナマは俺が抱く!『石つぶて 外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち』

■原作:清武英利 脚本:戸田山雅司 撮影:蔦井孝洋 音楽:住友紀人 監督:若松節朗

■実際に起った、外務省の「ノンキャリ三悪人」とよばれる職員による外務省機密費の業務上横領事件をドキュメント的に小説化した原作を、WOWOWがドラマ化したもの。スタッフ、キャストは『しんがり』から移行しており、同じ俳優の面々がそれぞれ印象の異なる役を演じるのも面白い。

■外務省要人外国訪問支援室の室長が出入り業者から賄賂を貰っているらしいとの悪い噂を聴き込んだ警視庁捜査二課の主任たちの地道な情報収集でこのノンキャリ職員が隠し口座に億を超える預金残高があったり、競馬馬を何頭も所有していたり、マンションや愛人を複数抱えていたり、という異常な事実を突き止める。最終的に隠し口座が次々と発覚して、総額10億円近い着服金が発覚するが、外務省とは在外公館ポストを共有する警察庁から圧力がかかり、汚職での立件は見送り、詐欺罪での告発にトーンダウンすることで決着する。

■だが、ドラマの終盤で最も追求するのは、外務省から報償費20億円が官邸に上納され、官邸機密費に流し込まれる際に、一部は完全に裏金に化けて闇に消えているという疑惑。支援室長が架空の領収書を元に受領していたのは、単なる表の報償費(機密費)ではなく、その中から仕分けされた裏金の方らしいという点なのだ。だから知れば「命が無くなる金」なのだ。だが、当然ながらこれについては官邸はその存在を認めないから、本来あるべき証拠は出てこない。そこで支援室長の自白に期待するしかなくなるが、というのがクライマックスの作劇。加えて、捜査のスコープに入っていた、室長から様々な形で現金が還流していたキャリア官僚には手が届かずに終わる。

■個人的には、外務省のノンキャリア(勤続30年)で年収が1,200万円という件に顎が外れましたが、いくらなんでもそんな阿呆なと、少し調べたところ、実際外務省は他省庁とは給与レベルが違うらしい!そもそも採用試験からして、外務省専門職員人事院ではなく外務省の独自試験で人選するのだから、その待遇も人事院勧告は参照していないわけ。それだけの特権と予算を持っているということで、外交機密や外交特権をかさに、ある意味やりたい放題だったわけだ。

会計検査院も迂闊には手を突っ込めないというのだから、その閉鎖性が「伏魔殿」と呼ばれるのも無理のないところで、金の流れも当然ながら一般の会計ルールから外れて闇に潜り始める。容易に想像はできることだけど、実際にそんな妄想に近い現実が存在したことに目眩がする。そこに風穴を開けた警視庁捜査第二課は、ある意味、空前絶後の快挙を成し遂げたといえるわけだ。実際、こんなヤマは最初で最後だと語られる。

■とにかく開いた口が塞がらない大事件にして珍事件で、空想力の斜め上を飛び去る厳然たる事実に最後まで唖然とするしかない。『しんがり』の山一證券執行部の腹黒さも想像の遥か上空を滑空していたわけだが、WOWOWのこのシリーズはスリリングで面白すぎる!

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