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■これはほんとに先日まで知らなかったのですが、昭和33年7月に、海上保安庁の測量船「拓洋」と巡視船「さつま」が米国の水爆実験ポプラの死の灰(フォールアウト)を浴びて乗組員が被爆していたという事件があった。その1年の昭和34年8月に乗組員の一人が急性骨髄性白血病で大量の出血を伴って死亡。当時の判断では、被爆線量は微量で健康に影響なし、被爆との因果関係はないと判断されたけど、NHK調査班がたどり着いた当時の遺物(!)からは、かなりの高濃度の放射線(内部被曝量推定143ミリシーベルト)が検出されて。。。
■ヒロシマ、ナガサキ、第五福竜丸までは知ってるけど、その後にまだ水爆実験の被爆被害があったとは初耳で、当時公式には因果関係がないことになったので、忘れられたようだ。というか意図的に忘れさせられたのだ。その裏には、いろんなカラクリと日米の思惑があり、反米感情が高まって日米安保条約改定に影響が出たり、日本が中立化すると困るから、ビキニ事件のように先鋭化するまえに、なるべく事件を隠蔽しようという動きがあったことが、単なる妄想や邪推ではなく、米国で機密解除された極秘資料から明らかになる。
■被爆許容線量基準は米国側に都合のいいように設定されるし、日本で検討委員会の座長だった某教授は、米国の水爆実験ができるように基準を設定してやったと手紙で明言しているし、実際にその後水爆実験が再開された。呆れて物が言えないくらいの、無茶苦茶にご都合主義の舞台裏。これが”原子力ムラ”の杜撰すぎる内実。。。まあ、今なお続く対米従属路線のシナリオの観点から、おおよそ想像できる筋書きだけど、本当にそんなことがあって、いろんな資料や取材でしっかり裏が取れているのが、凄い。呆れるほど凄い。
■当の東大教授は檜山義夫という水産学の先生(農学博士)で、ハゼの研究家だそう。昭和29年の第五福竜丸事件の放射線マグロの問題で放射線汚染の検討を行った流れで、許容放射線量を検討する座長だったらしい。すでに昭和31年には原子力委員会が発足しており、その後米国に配慮した許容放射線量の設定が行われたという時系列ですね。厚生省が「放射性物質に対する許容度の考え方」(食品、環境部会 昭和31年5月)という文書が作成されていて、被爆許容線量基準が定められたようだ。なにしろ当時の原子力委員会は正力松太郎が委員長なので、日米政府はやる気満々だったわけです。檜山先生も、今後はさらに多くの量の放射線を受けることを覚悟しないと原子力時代は訪れないとまで言ってますからね。東大の先生、怖い。。。
■ただ、同時期に以下の文書も策定されているようなのだけど、その相互関係は番組でも触れられていない。多分、調査はしているだろうけど。
・原子爆弾後障害治療指針(広島長崎部会日本医師会雑誌第34巻第12号)
・放射性物質障害の有無に対する健康診断基準(医学部会 昭和31年6月)
・原水爆被害調査研究報告(医学部会)
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■「拓洋」の首席機関士の夥しい出血の病態が、まさに先日見たHBO『チェルノブイリ』の原発職員や消防士の被爆の様相(放射線障害)に似ているので、これはただ事ではないわけです。このあたりが、当時もっと突っ込んで取材されていれば、微量の被爆なわけないだろうと分かったかもしれない。遺物から検出された放射線量は激烈なものではなさそうだが、当時詳しく計測していれば、それ以上だった可能性が高いという。
■ちなみに、さすがNHKスペシャルなので、撮影機材も良いものを使っていて、お高いシネマカメラ撮影。ETV特集なんて、いまだにむかしながらのビデオカメラだし、撮影も下手っぴだよ!NHKスペシャルは破格に金がかかってるから、さすがに撮影も編集も格が違うなあ。映画化するつもりじゃないかな?いや、するべきだと思う。
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