配役の顔ぶれは楽しいけど、事件の闇と子どもの心は描けたか?『罪の声』

基本情報

罪の声 ★★★
2020 スコープサイズ 142分 @DVD
原作:塩田武士 脚本:野木亜紀子 撮影:山本英夫 照明:小野晃 美術:磯見俊裕、露木恵美子 音楽:佐藤直紀 監督:土井裕泰
制作:TBSスパークル、フイルムフェイス

感想

■グリコ・森永事件をモデルにして、真犯人探索の興味と、犯行指示に使われ「罪の声」の持ち主となってしまった子どもたちのその後の半生、子どもたちを犯罪に利用した親の罪が描かれる小説の映画化。よくぞ映画化したものだと感心するものの、最終的にはなぜか2時間サスペンスのような愁嘆場が続き、明らかに構成に難ありだ。

■特に、真犯人に対して、小栗旬が安易な正義感を振りかざして総括する場面はあまりに浅薄で、空疎。当然のように、全共闘世代のおじ(い)さんたちの逆鱗に触れることに。いや当然だとと思いますよ。こうした機微な素材を扱う大作映画なので脚本の野木亜紀子は苦労したと察するが、さすがに無理があった。

■犯人グループの構成や、犯行動機については概ねそんなものだろうと思うし、目的は株価操作による空売りというのも、まあさもありなんではある。個人的にはアングラ経済の動向には興味津々なので、証券会社のディーラーや伝説の相場師(総会屋?)などが登場するだけでウキウキする(?)し、特に塩見三省のいぶし銀の演技は圧巻。

■前半は犯人グループの探索、後半は親のおもわくで犯罪に関与することになった子どもたちのその後の半生とその気持をの痛々しさを汲み取るところに眼目がある。犯行テープの子どもたちに着目した原作の面白さは、だから後半にある。でも、本来の主眼となる子どもたちの運命の残酷さよりも、次々と登場する証人たちの顔ぶれのほうが映画としては面白くて、むしろそちらが映画の魅力になっている。正直、子どもの気持ちの痛々しさはうまく描けていない。

■脇役の配役については、まだ現役で活動指定していたのかとか、健在だったのか(失礼!)とか、そんな感慨が去来する面々が楽しくてね。宮下順子正司照枝沼田爆、岡本麗、浅茅陽子桜木健一、ちょっとカテゴリーが違うけど、高田聖子。浅茅陽子なんて誰だかわかりませんでしたよ。沼田爆の新作が観られるなんてとか、宮下順子てどこかで年齢が止まってませんかとか。高田聖子もさすがに年とったなあ(でもこの中では儲け役)とか、桜木健一が柔道着で出てくる(しかも製作はTBS)サービスとか、そういった下世話な楽しみで、観客の年寄りたちはニコニコ楽しんでしまうわけ。なので、楽しいオールスター映画ではある。

■最終的にドラマの肝は二人の老人に集約するのだが、これをよりによって梶芽衣子と宇崎竜童に演じさせるあたりも、なかなか計算高い。宇崎竜童は結構好き好んで優柔不断でブレる男を演じがちで、またそうした役柄が上手いのだが、梶芽衣子の起用はなかなか含蓄が深い。というか当然、野良猫ロックや女囚さそりを踏まえた配役で、本人も望むところという気概での出演だろう。でも、彼らを映画の作者は(たぶん原作も)明確に批判し、断罪する。でもそこは単純に白黒つけるのではなく、もっと含みを持たせるべきなのだ。あの時代の生き方や闘争の歴史を現在のものさしで単純に割り切るのはあまりに不誠実だし不正確だ。それにこの二人の運命的なめぐり合わせも、それだけで独立した映画になるくらいのエピソードを簡単に点描してしまうので、説得力には欠けるし、とても誠実とはいえない。

■つまり、この映画の終盤は『科捜研の女』的で、『京都地検の女』にはなれなかったということだ。この表現で何人の人に通じるか定かでないが、言い得て妙と、自画自賛したい気分だ。そういう意味では、本作の脚本は岩下悠子が適任だったかもしれない。ホントにそう思う。

■でも一般的に考えると、こうしたハードで機微な素材を複雑な綴織として料理できるのは、現役(なのか?)では高田宏治くらいだろうか。本来なら東映が社運をかけて取り組むくらいの原作だと思う。でも理想的には、井手雅人が脚本で、野村芳太郎が監督すれば、証人演技のアンサンブルや、子どもの視点をもっと痛々しく描きこむことができたろう。そう考えると、この原作はWOWOWあたりでミニシリーズ化するのが最もふさわしい気がする。やっぱりWOWOW版『レディ・ジョーカー』観ようかなあ。

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