ハワイ移民は戦争によって心の祖国と家族を喪った…その慟哭を描く『山河あり』

基本情報

山河あり ★★★
1962 スコープサイズ(モノクロ) 127分 @BS松竹東急
企画:木下恵介 脚本:久板栄二郎松山善三 撮影:楠田浩之 照明:豊島良三 美術:戸田重昌 音楽:木下忠司 監督:松山善三

感想

■大正はじめに移民としてハワイに渡り、苦労の末二世を設けて現地に定着するが太平洋戦争が勃発すると、アイデンティティ・クライシスに直面した息子たちは二世部隊に志願するし、たまたま日本に帰国していた者は敵国のスパイと断罪され、憲兵によって強制収容所に入れられる。。。

■ソフト化もされていないのでなかなか観られないけど、高峰秀子はお気に入りと言っているらしい本作、ちょっと微妙な出来栄えで、名作とか傑作とは言いにくいけど、テーマは明瞭だし、かなり良いポイントを突いているとは感じる。当然ながら大規模なハワイロケを敢行するけど、モノクロ撮影というのが大胆。東宝映画なら当然総天然色だけど、敢えてモノクロというこだわりが凄い。要は単なる観光映画じゃないぞ!という決意表明だろう。撮影は木下組の楠田浩之なので、木下組そのままの横移動の長廻しがふんだんに登場して、実際よく出来ていて豪胆な撮影。

■さらに微妙なのが、深刻な話なのに、木下忠司がハワイアンなお気楽な旋律を当てるところで、深刻なのか呑気なのかはっきりしてくれよと誰しも感じるところ。実際、中盤まではやっぱりハワイ観光映画も兼ねている。大きな役柄を小林桂樹とかミッキー・カーチスが演じるから東宝映画風味も混じっていて、ホントに松竹映画といよりも東宝映画の感触。であれば、中盤の真珠湾攻撃の場面はもっと特撮こみでスペクタクルになるところ(せめて合成は欲しい)だが、さすがにそうはならずに中途半端。極太ゴシックの字幕で画面いっぱいに「戦争」とか出すから失笑する。このあたりのセンスの悪さは、いかにも松竹でいかんともしがたい。

■でも、木下恵介の名作『陸軍』そっくりな二世部隊の出征場面と日本での兵士の出征場面をカットバックするあたりから本調子が出てきて、高峰秀子が一時帰国した祖国で辿る酷い境遇にフォーカスするあたりから一気に映画の格が上がる。あれほど錦を飾りたいと念じた懐かしの祖国で迫害され、祖国を喪った悲しみに加えて、次男(ミッキー・カーチス)は憲兵に責め殺される。しまいには、長男(早川保)が二世部隊に志願して欧州戦線で戦死したと知らされる。夫(田村高廣)はすでにハワイでの戦争を巡る親子喧嘩で憤死しており、高峰秀子はたった一人で残される。ラストでその呪詛の向けられる先をもっと明確に打ち出せば傑作になったはずなのに、そこはぼかす。敢えて台詞を駆使しなかった試みは偉いと思うけど、勿体ないと思う。


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