やっと読んだ、白坂依志夫の奇書『不眠の森を駆け抜けて』

白坂依志夫の書いてきたエッセイやインタビューを集めた本だけど、あまりの内容に購入後ずっと積読状態だったものを、11年ぶりに先日やっと読了しました。

白坂依志夫は、高名なロシア文学者でありながらシナリオ作家として名作からアチャラカまでなんでも書いた八住利雄の息子で、毛並みの良い早熟の天才。少なくとも1950年代後半の日本映画を牽引した脚本家であることは確か。篠田正浩の証言では、増村の『暖流』はなぜかメロドラマの本家、松竹の若手が衝撃を受けたそうで、続く『巨人と玩具』でその衝撃が本物であったことを確認する。映画の鑑賞眼は本物だった三島由紀夫は、『巨人と玩具』と舛田利雄の『完全な遊戯』を高く評価したそうです。確かにわかってるねえ。

■でもその後睡眠剤(ハイミナール)中毒でペースを崩して1960年代はすでに調子が悪くなっている。60年代後半に市川崑夫妻のすすめで入院して薬を抜いたらしいけど、その後に書かれたエッセイを読んでも、ホントに薬抜けてますか?というものが散見されるような。。。

■具体的に書くと却って語弊があるけど、石堂淑朗の二度目の奥さんを「東京◯◯女」と執拗に侮蔑したり、宮内婦貴子はじめ複数の脚本家の性的嗜好アウティングしたり、やりたい放題で、さすがに今はもう無理です。出版できませんよね。でも60年代後半の若い映画人の乱脈な素行については非常に面白そうなので、それはそれで映画にでもしてほしい気はする。ドラッグとセックスの曼荼羅になるだろうけど、描き方によってはとても魅力的になるはず。

■巻末に篠田正浩との対談が載っていて、最近は「いかに生きるか」とか「生きがい」が云々と言うけど、俺たち戦中世代は「いかに死ぬか」しか教えられなかったし、戦後もそれしか考えられないんだと述懐するあたりが非常に興味深い。教育って恐ろしいですよね!まさに『狼の王子』そのものじゃないか。そして『乾いた花』が傑作になるわけだ。
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■なので、ATGで撮った『心中天網島』は、松竹に入ったときから念願の企画だったらしい。アスリートから歌舞伎へ、そして最新VFXの使い手にという、篠田正浩の人生行路は謎だらけだ。

■なお、白坂依志夫のインタビューで、特撮映画史的にちょっと気になる記述があったので、それについては後日記事を書きます。意外と誰も言及していない意外な事実について、そっと言及されていました。

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