『野獣狩り』

野獣狩り
1973/ST
(2005/2/5 よみうりテレビ録画)
原作・脚本/松山善三、西澤浩 潤色/須川栄三
撮影/木村大作 照明/森弘充
美術/薩谷和夫 音楽/村井邦彦
監督/須川栄三

感想(旧HPより転載)

 日本ポップコーラの社長が誘拐された。犯人は「黒の戦線」と名乗る過激派だった。反発しながらも事件を追う親子デカ(伴淳三郎藤岡弘)だが、犯人の要求はポップコーラの原材料を公表せよというものだった。本社は身代金を提示するが、事件の経緯に不審を抱く老刑事(稲葉義男)は意外な真相を発見し、犯人の返り討ちにあって瀕死の重傷を負う。そして犯人は身代金の受け渡しを要求してくるが・・・

 よみうりテレビのシネマ大好きで君塚良一セレクションとして放映されたものだが、驚くべきカルト作である。この後須川栄三は「野獣死すべし・復讐のメカニック」という秀作を撮っているが、本作はより過激な方向へ逸脱している。製作の藤本真澄は”親子デカの刑事アクションですわ!”という釣り文句にまんまと騙されて後で後悔したに違いない。当時の東宝の企画の混乱を窺わせる一作でもある。

 犯人グループを富川徹夫と樋浦勉という、岸田森草野大悟の六月劇場グループ近辺の若手俳優が演じて、特に富川は映画での代表作といえる大活躍を見せる。贅沢を言えば、清水紘治あたりに演じてもらうと犯人像の深みが増すというものだが、それはまた別の話。

 なんと言っても異色なのは藤岡弘が過激派グループにシンパシーを感じていることで、東宝映画としてはかなりやばい雰囲気を湛えている。身代金目当てだったと知って落胆するのだ。歩行者天国での身代金のやりとりを隠し撮りのキャメラで追うシーンも圧巻で、「誘拐」で木村大作が起用された理由が納得できる。大河原孝夫(あるいは富山省吾)はこの木村大作のデビュー作を観ていたに違いないのだ。

 さらに「太陽を盗んだ男」にも通じる過激なロケ撮影が続出し、無謀な長廻しやあからさまに危険なシーンの釣瓶うちだが、特に社長の処刑シーンのアイディアは絶品といっていい。さらに稲葉義男の息の根を止めるために病院に潜入した過激派の女が意外な逆襲を受ける場面は、梶原一騎並の超絶アイディアで文句無しの傑作シーンである。

 これらが松山善三のオリジナルアイディアとはどうしても思えないので、おそらく西澤浩という若手ライターの若気の至りで沸いて出た脚本に須川栄三が手を加えていったものだろうが、ある意味で「セブン」にも通底する後味の悪い結末に犯人のメッセージが呪いのように繰り返されるなか、藤岡弘が危うく魅入られてゆく様は、黒沢清の「CURE」で百年前の狂人のメッセージに魅入られる役所広司の姿を髣髴させて、東宝映画という安全圏を完全に逸脱している。

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