あなた買います
1956 スタンダードサイズ 112分
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原作■小野稔 脚本■松山善三
撮影■厚田雄春 美術■平高主計
照明■須藤清治 音楽■木下忠司
監督■小林正樹
■プロ野球選手のスカウト合戦の内幕のどす黒さを軽妙に描いた小林正樹の出世作。ということであってるかな。このころはまだ若かったからユーモアもあるし、語り口も軽妙な色合いがある。後には真面目一方になってゆくからなあ。松山善三の脚本がよく書けてますよ。特に、佐田啓二と岸恵子の恋愛関係ではないけど、理解合いあってゆくプロセスと台詞が、さすがに松竹風で上手い。
■大物新人のパトロンを伊藤雄之助が演じていて、さすがに不世出の怪優。『五辯の椿』の灰汁の強い演技はステレオタイプだったけど、本作は抑えて真面目に演じて、飄々とした持ち味も出て、好演といえる。戦時中は中国でスパイ活動に従事して、戦後は貿易会社に勤める謎の男。脚本も見事に描いたし、一世一代の名演といってもいいかも。
■後半は故郷の高知に移行して、契約金をめぐる兄弟たちの欲の張り合いが描かれる。このあたりは、まあお決まりの展開ではあるが、確実に面白い。山茶花究、石黒達也、三井弘次、多々良純と灰汁の強い配役の面白さは、まあ鉄壁の布陣。
■撮影は小津組の厚田雄春で、非常にリアル志向のモノクロ撮影なので、ちょっと重苦しい印象。照明もかなり暗く、語り口的にはもっと明るくても良いだろう。せっかく佐田啓二の独白を交えながら洒脱な感じの語り口なのでね。そういえば、後の大映の『黒の』シリーズに似てるなあ。あれはもっと都会的なモノクロ撮影だったわけだが。(続く)