東映時代劇は死なず!小芝風花主演で蘇った『大奥』(ネタバレありあり)

小芝風花主演の『大奥』が完結しました。いまどき漫画原作でないオリジナルドラマは、それだけで貴重な気がします。2019年に完結編が放映されたのですが、予想通りの復活です。

■第10代将軍家治(亀梨和也)のもとに皇族の家から倫子(小芝風花)が輿入れするが、大奥では将軍を背後から操ろうとする田沼意次安田顕)の陰謀で世継ぎに関する醜い争いが勃発する。何者かによって世継ぎの幼子が事故死するが、それは徳川家に恨みを持つ松平定信宮舘涼太)の謀略であった。様々な事件を経て、倫子は家治の政治的理想に共鳴し、真の夫婦の契を交わすが、家治は三つ葉葵の遺言を残しあえなく病没する。改心して家治の理想を受け継ごうとした田沼は松平の御三家を味方につけた政治的策略で追放され、炎上する江戸城切腹して果てる。倫子はお品(西野七瀬)、お知保(森川葵)とともに、遺児を匿って次期将軍に押し立てることを誓う。というお話。もちろん史実をもとに、想像力による大幅な飛躍を含む物語です!

■意外にもしっかりしたテーマ性と現代性を盛り込んだ意欲作で、低予算ながら京都ロケの地の利を活かして、豪勢に見えるのも見どころ。おそらくシネマカメラを使用していて、VFXにも結構お金をかけている。以前の『大奥』は京都撮影所なので生火を使ってステージで大規模に火をもやして一発撮りだったけど、2012年5月に第1スタジオを全焼する失火事故があったので、さすがに東映京都ももう生火は使えないようだ。。。そのかわり、CGによる炎の表現が非常に洗練されているから、悪くない。と思ったけど、2019年の完結編でもバンバン燃やしていたような。。。

■皇族から徳川家に嫁入りした倫子(小芝風花)が、何を考えているのかつかみにくい陰鬱な家治(亀梨和也が意外と好演)の鬱屈の原因と、政治的理想に共鳴して真の夫婦になり、ついには極妻に変貌するという、いかにも東映らしい豪快な骨組み。実際に脚本を書いたのは大北はるかという人だけど、フジテレビを中心に活躍する結構なベテラン。少子化が大問題だとか、防衛よりも教育に予算を使うべきだとか、研究費が足りないなら幕府が出すとか、家治が言い出すというあたりが、さすがに面白いところで、理想主義的な将軍であり、現代的な批評でもある。実際、江戸時代後期は天変地異や飢饉による少子化が問題となっていたけど、その後なんとかなったので、今日の少子化問題も将来的には解決するの?かな??

■対して家治を策謀により操って権力を簒奪しようとする悪役が田沼意次で、安田顕がかなりやりすぎな感じで怪演する。この人はもっと静かにさらっと演じたほうが本来の味が出る人だけど、本作はいかにも東映時代劇の悪役のラインを踏襲して、目一杯跳ねる。その割には、政治的な理念とか実務家としての手腕とかが描かれないから、人間像が浅くなるのだが、最終回で急展開して、その心情を吐露するから、なかなか侮れない脚本で、切腹シーンの大見得は、いかにも東映時代劇らしくて素晴らしい。出生の秘密に関わる疑惑(これが田沼の罠だったんだけど)を払拭した家治に閉門蟄居を命じられるけど、浅間山噴火という国難に、この日本の窮状を救える辣腕政治家はお前しかないと名誉回復されるあたりの泣かせる展開は、時代劇の醍醐味満点で、いやあ、なかなか良いものを見せてもらいました。

ヤスケンが臭い芝居で跳ねるには実は理由があって、一方に巨悪として松平定信が登場して、アイドルの宮舘涼太(旧ジャニーズ)が意外な好演を見せるから、その演技的な対比を狙ったものだ。実際、宮舘涼太という人は初めて観たけど、歌舞伎の人かと思った。顔立ちがあまりにも時代劇っぽいので。あるいは東映に昔からこんな人いたかなあ?と感じた。あまりにも時代劇に馴染んでいるので。でも、京都で時代劇に出るのは初めてだったらしい。なんでこんなにできるの?権力の中枢に上り詰めるためには手段を選ばず、幼子の命を奪うことに躊躇しない冷酷なサイコパス。あっぱれな悪役。

■実は主な配役は時代劇や東映撮影所が初めての人が多くて、大役だった森川葵も、田中道子(オスカー)も同様。それでいて、みなさんしっかり演じているから素朴に凄いなあ。一級建築士資格を持つ謎の女優 田中道子なんてオスカーなので、小芝風花とバーターで参加したのだろうけど、謎の貫禄で栗山千明を敵に回して演じきるから驚く。特に中盤の跳ね方はあっぱれだった。栗山や安田顕といった濃いキャラクターに十分対抗してしまったから凄いよね。

■倫子のお付きのお品を西野七瀬が演じて、理由あって途中で倫子を裏切って対立するけど、その解決はさすがに安易でもったいなかった。もっと錯綜させないと、ラストの和解が際立たない。西野七瀬は『52ヘルツのクジラたち』で振り切れたヤンママを熱演していたけど、本作は少し役不足だった。もっとできる人だと思う。むしろ森川葵がいい役を貰っていたね。最終的に家治が言い残す三つ葉葵の謎掛けをきれいに回収した作劇にも、素直に感心しました。

■最終的に小芝風花松平定信が直接対決するけど、小芝が完全に極妻と化していたのも、さすがに東映で、悪くない。小芝風花はある意味一番損な役どころで、熱演するけど、基本的に役柄に合っていない。泣いたり悩んだり落ち込んだり、そんな暗い表情の芝居ばかりなんだけど、小芝風花の持ち味はやはりコメディで映えると思う。『トクサツガガガ』の好演と比べると、全く生彩がないよね。頑張っているのに。

■撮影は朝倉義人がメインで、Bカメラは田中勇二が回している。田中勇二はさすがに定年再雇用ですかね。シネマカメラの導入(多分)で、ルックはリッチでゴージャス、かなり黒味を強調した重厚な画作り。ただ照明は東映らしいフラットな絢爛なもので、地下牢とかの質感とか照明は大映京都の質感とタッチに倣って欲しいと感じたね。実は結構ゴシックなお話でもあったので。メイン演出は東映の兼崎涼介で、いまやすっかりベテランですね。

参考

maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
さいきん小芝風花は出過ぎですが、実際とても良い個性なんですよ。でもゴリ押しで有名なオスカーの売り方は問題だと思います。
maricozy.hatenablog.jp
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兼崎涼介はチャンバラの傑作があるんですよ。
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