忘れえぬ慕情 ★★★☆

忘れえぬ慕情
1956 スタンダードサイズ 119分
BSスカパー
脚本■松山善三、J・C・タケラ、アネット・ヴァドマン、イヴ・シャンピ
撮影監督■アンリ・アルカン 照明■加藤政雄
美術監督■伊藤熹朔 音楽■木下忠司 特殊技術■川上景司
監督■イヴ・シャンピ

■日本特撮映画史上の有名作だが、初めて観た。日仏合作による異国情緒あふれる大作メロドラマで、もっと退屈なお話かとおもいきや、特に後半はなかなか盛り上げてくれるので、大いに堪能した。

■当時の長崎で大規模ロケを行ったところが美点で、本編セットも相当豪華で、制作当時の町並みを眺めるだけでも楽しい。前半はフランス人造船技師のどこか物見遊山な風情がまったりと楽しいし、フランスから古い恋人がやってきて焼けぼっくいに火がつき、岸恵子と三角関係になるあたりからメロドラマが加速する。大阪、宮島のロケも素朴に楽しいし、いい感じだ。フランス人カップルの日本人を完全に見下げた態度も素直でよろしい。

■そしてクライマックスは大型台風の直撃を受ける様子がスペクタクルに描かれ、メロドラマは急遽怪獣映画タッチに変貌する。台風をゴジラに置き換えれば、そのままゴジラ映画として通用する。川上景司の特撮は台風の情景を点描するもので、ドラマには絡んでこないが、倒壊する木造建築から女の悲鳴が聞こえてきたり、『日本沈没』の先取りかと思われる演出もあり、波落としの仕掛けも相当大型らしく、ステージ撮影だが波浪の描写は東宝と比べて全く遜色ない。照明の暗さも東宝円谷特撮とは異なり、明確にリアル志向だ。

■避難所となったデパート内の描写なども怪獣映画そのものだし、フランスには無い地震と台風を経験するフランス人カップルの、日本人の家は壊れたらすぐに建て直せるようにできているんだと語るあたりにはこの映画のテーマが滲み出して、なかなか秀逸。ラストでは台風一過、すでに復興の作業が始まっていることを雄大なクレーンショットで示して、非常に感動的なのだ。原爆のことも少し触れられるのだが、本当は岸恵子被爆者であったりする設定が考えられていたのではないか。原爆の被害からもしぶとく立ち直り、台風の被害など柳に風で受け流して、壊れたものはもういちど作ればいいと鷹揚に構える日本人の心性の逞しさと柔軟さを実はかなりよく掬い上げて賞賛しているのだ。

岸恵子は完全にお人形さん的に可愛いし、台風シーンでは吹き替え無しでずぶ濡れになって熱演、監督の力の入れ方がわかるというものだが、公私混同は如何なものか!造船技師を日本に残してひとりで故国へ向かう女ダニエル・ダリューの複雑な表情で終わるラストシーンも実に素晴らしい。


© 1998-2024 まり☆こうじ