一気に見たけど、昔ながらの古臭いお涙頂戴ドラマだった!坂元裕二の『Mother』(ネタバレありますからね!)

坂元裕二の代表作ともいわれる2010年の『Mother』全11話を一気に観ましたよ。最近のドラマは1クールといっても、実際は10話くらいしかないので、見易いのはいいですね。このところ立て続けに『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』を観て、語り口が非常に新鮮なので、坂元裕二のもっと若い頃はどうだったのかな?と興味をそそられたわけですが、端的にいって、典型的な昔ながらの母ものドラマで、正直感心しませんでした。

■昔から母もの映画とかドラマは山程あるわけで、基本的にお涙頂戴ドラマとして玄人筋からは(だけでなく業界内でも)軽蔑されるジャンルです。でも廃れないのは、普遍的に一般観客の琴線を刺激するからです。極端に言って、人間が母親から生まれる限り、廃れないジャンルかもしれません。

■『MOTHER』は、小樽で母親からネグレクトされていた少女を誘拐してしまった代用教員の独身女性のお話で、母親だったりこれから母親になる娘だったり、産みの母、育ての母、未婚の母、いろんな母親が登場して織りなすアラベスク。なんだけど、かなり構成が杜撰。お話は相当にご都合主義で展開するから、リアルな説得力はない。しかも、少女を誘拐した母親が日本中を逃げ回るロードムービーならいいのに、あっと言う間に全財産を窃盗にあい、生家を頼ることになる。そこに妹たちがいて、三姉妹であることがわかるけど、これ最初は三姉妹の物語にしたかったらしい。でも、この設定はどうも最後まで不発のままで終わる。たぶん昔のように2クールくらいあれば、前半は警察の目を逃れながら各地を逃げ続ける疑似母娘の逃亡劇になったはずで、そこが観たいのにという気が、どうしてもしてしまう。
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■他にも言い出せばきりがないけど、各登場人物の彫り込みも浅くて、特に雑誌記者の山本耕史なんてかなり描写がぶれていて人間として理解できないから魅力もないし、患者の家に個人的な心配に基づいて出入りする市川実日子の医師とか、ありえない。松雪泰子なんて、清掃員に採用後研修もなしにその日のうちに働いてるし、どんな会社だよ?ホントに言い出せばキリがなくて、リアリティがない。

■なにしろ主演の松雪泰子がずーっと暗い顔して、ぼそぼそと囁くように喋るので、非常に陰気。このあたりは配役の限界を感じるところで、成功しているとは言い難い。陰気さの演技に綾がない。実際のところ、松雪泰子も演じにくかっただろうと思う。こんな難しい役、どれだけ頑張っても結局見せ場は全部子役が持っていくに決まっているし、子役の引き立て役にしかならない損な役回り。主役なのに。

■一方、松雪を捨てた母親が田中裕子で、これはさすがに見ごたえがあり、確か第7話で闇ルートで戸籍を買って二人に逃げろとすすめるあたりの人格の変わり方がスルッと自然に表現されるのには、さすがに凄かった。アウトローな母娘の血の繋がりをストンと腑に落ちさせる見事な場面であり演技。しかし、夫殺害事件の真相が最終回でさらっと明かされるのは不完全燃焼で、いかがなものかですよ。最終回でそんなこと言い出されても、ドラマ的に消化できていないじゃないか。

■とにかく毎回、メソメソ泣かそうとする古臭い通俗ドラマなんだけど、子役の芦田愛菜が異常にできる子なので、その奇跡的な演技を観るスリリングさは確実にあって、毎回、こんなことできるんだ!と驚くことは確か。特に第8話での芦田愛菜の演技については、作者の坂元裕二も以下のように述懐していて、ドラマを作ってる人々の間でも動揺する事件だったらしい。実際、あの場面の子役の慟哭は、誰が観ても胸を突かれると思う。子役の計算でできる演技じゃないから。

「Mother」の8話で、実の母の仁美(尾野真千子)が訪ねて来て、愛菜ちゃんが「もうお母さんじゃない」って追い返したあとに松雪さんの胸で泣くんですけど、胸をかきむしられるような泣き声でした。どうしてあんな風に泣いたんでしょうね。技術とかじゃないし、5歳の芦田愛菜ちゃんがどんなふうに感情を作ったのかもわからないし、本当に不思議です。あれはすごかった。
出典:脚本家・坂元裕二インタビュー (3) 「初対面の芦田愛菜にオーラを見た」 | 脚本家・坂元裕二が語る 創作の秘密

いかにもこまっしゃくれた典型的な子役演技を見せることもあるけど、時々、想像を超えた演技を繰り出してくるから、実際泣かされるのは事実ですよ。悔しいけど、安い涙をハラハラと零してしまう。それは認めるけど、倉本聰とか早坂暁とか市川森一とか山田太一とかが革新してきたテレビドラマのレベルではないですよ。レベルが全く違う。

■ネグレクトな母親を演じる尾野真千子は『MM9』の直前にこのドラマに出ているので、『MM9』でも相当にやさぐれてましたね。本作の母親役の荒んだ心象を引きずっていたかもね。もちろん傑作(らしい)『カーネーション』の前です。その愛人が綾野剛で、2013年『八重の桜』の血管切れそうな熱演の前で、まだ小さな役。綾野剛に歴史あり。最新作『カラオケ行こ!』では結構年取ったなあと感慨深かったけど、おっさんの色気を帯びてきたね。

■しかし、この程度の脚本を書いていた坂元裕二が前述のテレビドラマの巨匠たちの域を軽く超えたかもしれない『カルテット』とか『大豆田とわ子と三人の元夫』を書くとは全く思えないので、ホントに同じ人が書いているのでしょうかね?あるいはPの趣味や嗜好が大きく作風に影響するのでしょうか。業界でよくあるように、坂元裕二は共同ペンネームでは?という気がしますが、いくらなんでも妄想ですよね?

参考

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母もの映画のなかには佳作が少なくない。『愛を乞うひと』は確実に『Mother』に影響してますね。『血だらけの惨劇』のジョーン・クロフォードも田中裕子に影響を及ぼしているに違いない。
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是枝監督の『万引き家族』はこのドラマの影響下にありますね。
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