なんだか「みぞみぞ」してきた!坂元裕二の『カルテット』楽しい!

坂元裕二って、いまでは大御所ですが、個人的にはトレンディドラマの書き手という印象で時代が止まっています。何十年前のこと?て感じですが、実は坂元裕二はバージョンアップしていたのでした。

■初期のヒット作からすれば、さらに大御所としては、もっと大人向けのドラマを書く作家になったかと思えば、意外にもサブカル風味が濃厚な、でも軽妙な語り口の書き手に変貌していて、年齢を感じさせない作風になっています。そのことをつい最近認識しました。映画『花束みたいな恋をした』が発端ですが、TBSで放映された『カルテット』をみたんですね。といっても、メジャーデビューが異様に早かったので、まだシニア年代ではないんですよね。ぎりぎりミドル世代?

■実はもっと大人の恋愛劇かと思っていたのですが、実は意外と純情な恋心とサスペンスとコメディを綯い交ぜにした軽妙な作風で、非常に面白く観ました。坂元裕二はどうも演劇の影響を受けているようで、『カルテット』でも明らかに演劇的な会話劇の掛け合いの面白さが狙いになってましたね。そこのところを土井裕泰が非常に上手く演出しています。他の演出家のカット割りなどは、ある意味オーソドックスで、ちょっと重かったりするのですが、土井裕泰のカッティングと編集は軽快で軽妙です。『罪の声』なんかの映画より、むしろ上出来だと思います。

■『カルテット』はチーフPが土井裕泰ですが、もうひとりの佐野亜裕美がPとして注目されました。なので、『エルピス』を観ると、遡ってこれも見逃せないぞという気になるわけです。『エルピス』は思い切り重厚でありながら、コミカルな味わいも加味した、なかなか稀有なドラマだと思いますが、そこまでの深みはないにしろ、この軽妙さは良いですね。

松たか子松田龍平満島ひかり高橋一生の4人の演技のアンサンブルがもちろん見どころで、30代中盤になっても音楽の夢を諦めきれない世間的にはダメな男女が、軽井沢の別荘に住み込んで、音楽家としてのかすかな希望にすがりついて足掻くが、彼らにはそれぞれ秘めた過去があり、特に松たか子には夫殺害の嫌疑すらかかっていた、というお話で、”みぞみぞ”します。

イッセー尾形安藤サクラ(声だけ)、ミッキー・カーチス宮藤官九郎岡部たかし(ただの、たこ焼き屋)、篠原ゆき子とゲストも豪華で、特にクドカンは大きな役柄で中盤で主人公になる。結婚生活ですれ違う男女の想いという部分は、『花束みたいな恋をした』でもリフレインされたけど、こちらの方が尺があるから、より綿密に描かれるし、このドラマで一番大人な部分。ベテランといっても坂元裕二はまだ若い方(この当時まだ50歳くらい)なので、今後いろんな人生経験を経ると、このあたりの人間の機微がもっと深掘りされることだろうと思料します。これから親の介護や死別や相続やいろいろしんどい事や嫌なことを経験すると人間観が変化するし深化すると思いますよ。50歳は、まだまだ若い。

■おなじみの松田龍平の茫洋とした個性がピッタリとハマるし、その茫洋さに磨きがかかってます。高橋一生の細かいことにめんどくさい性格と名コンビだし、松たか子のうまさというか、存在感とかスター性は凄いもんですね。一方で『来る』では漫画的な霊媒師の役を完璧にカッコよく演じてしまうし、もちろんレリゴーを歌い上げるし、才能が輻輳してますね。「芸能の民」の遺伝子は、全く恐るべきものです。絵に書いたような、整形美人的な美人ではなく、少し歪んだところがあるので、表情に生の陰影が宿るところが、役者としての個性だろうね。感心しました。高橋一生のはじけっぷりも見どころで、イキイキしてます。

■そして、飛び道具としての吉岡里帆。愛想は良いけど目が笑ってない、サークルクラッシャーサイコパス風味のアリスちゃんは、当時も話題になったようですが、たしかに鮮烈です。脇役だけど、メインの4人を食う勢いの目立つ脇役。ガッツのある、できる役者なら闘志が燃える役どころです。短い出番だけど主役を食ってやるぞという性格俳優の役どころですね。ある意味で、往年の岸田森とか本田博太郎とかが戦ってきたポジション。さすがわれらの吉岡里帆だと、納得も得心もした次第です。信じて付いてきてよかった!(?)
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp

■楽器の演奏シーンも、かなり演者ががんばっているし、テレビドラマでここまで演者が実際に楽器を演奏するのも珍しい。昔のドラマや映画でも、基本的に役者は演奏しませんからね。ハリウッドでは訓練に時間をかけて実際に演るけど、日本ではそこまでの余裕はなかったはずが、最近はそこにも結構時間と手間をかけてます。演者も、じっさいにできちゃうからポテンシャルが凄いよね。

■というわけで、実際にかなり贅沢な大人の娯楽だった『カルテット』だけど、Pの佐野女史はTBSの人事異動でドラマ製作の現場から外されてしまうことになり、会社を飛び出したわけですね。TBSとしては優秀なので女性管理職に引き上げたかったわけでしょうが、「現場命」のクリエイティブな人に管理部門は面白くないわけです(実際つまんないよ!)。まあこれだけの実績と人脈と信用と度胸があれば、どこに行っても生きていけるわけで、出産と育児でしばらく現場を離れるのかもしれませんが、佐野Pの今後の活動(企画力)には注目したいと思います。(もっとやれ!)

参考

これはかなり良かったよね。唐突に登場したサブカル青春映画の突然変異。
maricozy.hatenablog.jp
これもなかなかの怪作で快作。松たか子、サイコー。
maricozy.hatenablog.jp
まあこれはいろいろと年寄から突っ込まれる題材ですね。リアルではないけど、意表を突く視点があり、結構面白いけどね。土井監督ね。
maricozy.hatenablog.jp
坂元裕二の代表作ですが、同じ人が書いたとは思えないのは、私だけ?
maricozy.hatenablog.jp
『大豆田とわ子と三人の元夫』は洗練されすぎていてびっくりしました。ホントに日本のドラマ?
maricozy.hatenablog.jp
傑作とは聞いていたけど、実際凄かったのが『それでも、生きてゆく』いろんな想定を上回る化学反応が連鎖している。
maricozy.hatenablog.jp

© 1998-2024 まり☆こうじ