坂元裕二はやっぱりコメディが映える!無類に楽しい『最高の離婚』を一気見!

■2013年1月期にフジテレビで放映された『最高の離婚』を観ました。最近のドラマはたいがい1クールで終わるので、一気見しやすいですね。1クールといっても、実際は10話か11話しか無いので余計に、さらっと観られる。離婚したかど一緒に暮らす夫婦(瑛太尾野真千子)とそもそも婚姻届が未提出の仮面夫婦真木よう子綾野剛)が、絡み合って微妙にクロスしながら、それぞれの夫婦の決着を探すお話。大人のコメディといいながら、まだ30歳前後のカップルなので、まだまだ未成熟な人間性のなかで、右往左往するわけで、そこをコメディに仕立ててみせる。

■主演は当ブログではおなじみの(?)瑛太くん(永山瑛太)で、めんどくさいへなちょこぶりが、逆に好感度アップですね。もちろんスマートな男前ですけど、へなってしているところが良いですね。ヘドラが好きなだけある!(?)

尾野真千子は名作と言われる渡辺あやの2011年『カーネーション』(今年中に観る!)のあとなので、貫禄をもってがさつな女を好演します。おそらく本人がこんな感じなんだろうなあと感じさせてしまうほど自然な演技で、これも高感度アップですね。7話で感動的なお別れの手紙を書きながら破り捨てる場面は秀逸。がさつに見えるけど、心根は結構乙女なのだ。だからぶつかる。

■一方で、真木よう子綾野剛カップルがいて、綾野剛は今に比べるとまだ色気が少なくてさらっとしている(そうでもないか?)けど、同時期に大河ドラマで『八重の桜』で松平容保を熱演しており、その演じ分けにも感銘を覚えるなあ。『八重の桜』は毎回政治的重圧で血管切れそうな演技を、それでも抑えた演技で演じて見事だったけど。実際、以下の通り述懐しているくらいだ。

「最近は体に容保がしみ込んでいくようで、本当につらい。普通の精神状態ではできません。眉間(みけん)には力が入るし、不思議な重力がかかってきます。現場に入ると病んでいる状態ですね。まっとうに生きようとすると、体が蝕(むしば)まれるような気分です。」
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■ドラマの撮り方からみると、この時期はまだ昔ながらのスタジオドラマの作風で、カメラやレンズの性能は良くなっているけど、ビデオ画質だし、特に照明に凝ったところもなく、むしろフラットでアベイラブルな照明で、監視カメラ的な視点まで利用して、狭い部屋(セット)を狭さ込みで撮ろうとしている。その演出意図の面白さも感じる。

■編集の具合いも、昔ながらのスタジオドラマのスイッチングの呼吸で、ある意味懐かしく感じた。往年のスタジオドラマのアドリブ感を感じさせる。このあたりが2017年1月期『カルテット』との大きな違いですね。『カルテット』は撮影にシネカメラを使用して、それでもフィルムルックではなく、かなりビデオ的な表現だったけど、テレビドラマのルックの進化を実感しました。編集もテレビドラマというより、映画的なリズミカルなカッティングだった。

■特に感銘を覚えたのは、坂元裕二の台詞の表現で、『最高の離婚』では、まだそれこそスタジオドラマっぽいタッチだし、編集なのに、『カルテット』ではむしろ演劇的に見えるように洗練されているところ。坂元裕二の練度もあるだろうし、演出や編集の狙いも洗練されたと感じる。でも例えば、真木よう子尾野真千子に諭す(むしろ攻める)以下の台詞なんか、グッと来るよね。

「あなたは、濱崎さんが仕事から疲れて帰ってきたときにお疲れさまって言ってたの?ずるくない?不器用で、人付き合いが苦手で、それでも外で頑張ってる人だよ。お酒も飲まずに帰ってきて、掃除して、洗濯して、自分のお弁当まで作ってる人だよ。何で責められるんだろ?自分ばっかり正しくて、自分の悪いところは棚に上げてさ。思いやりがないのはあなたも同じじゃないのかな?」

■第9話では4人が揃ってヘビーな会話を交わす長いシーン(修羅場)があって、上記はそのときの台詞の一部だけど、俳優部もさすがにこれは自主練しないとねということになって、撮影前に少し台詞合わせを行ったそう。でも、合わせすぎると段取りっぽくなるので、やりすぎないようにと気を使ったという。確かにこのあたりの塩梅は微妙なところであって、長台詞をマルチカメラで1テイクで撮って、あとで編集するというスタイルなので、役者としてはほぼ演劇と同じで、演劇であれば何度も演じるから自然と段取りがついてくるけど、逆に生っぽさが失われ、演劇的な「芸」に洗練されてゆく。テレビドラマの場合は、それはちょっと違うよねという共通認識が俳優部にあったようだ。後の『カルテット』などは、むしろもっと演劇に寄っていこうとした感がある。

■主演の二人は東日本大震災のあった夜に出逢って、交通網の麻痺した東京の街を朝まで歩きながら語り明かしたことで結婚に至る。そして最終回でも朝まで何時間も歩きながら駄話を交わすことで再び、二人は結びつく。この夜歩きの高揚感は、渡辺あやが2010年に書いた『その街のこども』が下敷きになっていると思う。
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■販売用ソフトのさいごには主演4人のインタビューが入っていて、とはいえまだ最終回を収録中なので、主演の瑛太は心ここにあらずでぼーっとしているのがおかしい。座長なのにだ!一方で、大きな場面は撮り終えた真木よう子綾野剛はスッキリしていてサービスに務める。綾野剛は意外とサービス精神旺盛ないい奴だね。

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