『エルピス』以前の佐野Pの代表作だった『大豆田とわ子と三人の元夫』
■佐野Pが制作したTBS『カルテット』を一気に観て、当然カンテレの『エルピス』も観ているので、その間に挟まった本作『大豆田とわ子と三人の元夫』も当然見逃せないわけです。
■放送当時も話題にはなっていたけど、とにかくタイトルが微妙なので、なんとなくスルーしてしまいましたよね。どんなドラマか見当がつかないから。今だからこそ、坂元裕二のオリジナル脚本なので見逃せないと思うわけですが。
坂元裕二の話芸が凄いレベル
■建築設計会社の社長、大豆田とわ子は三度の結婚と離婚を繰り返し、しかも三人の元夫は、いまだにとわ子に未練タラタラだった。。。それぞれの中年男女の恋愛(?)ドラマと、ある人物に対する秘められた想いが描かれる、とにかく洒落のめした大人のドラマ。
■坂元裕二の話術はこのところ名人芸の粋に達していて、たぶん三谷幸喜などは悔しくて歯噛みしているだろう。あんなおしゃれな大人のコメディを描きたいのに、俺が書くとなんでか全体に供っぽくなるんだよ!悔しい!って言ってるに違いない。科白の応酬とかシーン構成とか、もはや日本映画とか日本のテレビドラマを超えてしまった。もともとの企画意図としては、海外の配信ドラマのクオリティに追いつけ!ということで、佐野Pの肝いりで座組がされたのだが、それにしても、どんだけお金かかってるのかなあ?
映像のルックが映画並
■とにかく映像のルックとかインテリアのオシャレさが圧巻で、日本のテレビドラマのクオリティではない。実はTBS『カルテット』でも、ARRIのAMIRAという最新鋭のシネカメラ(デジカメ)を使用していて、あれはあれでかなり上質なリッチなルックだったけど、本作も同じシネカメラを使用している。
■でも、映像のルックの仕上がりが全く異なるので、同じキャメラで撮ったとは信じられない。本作はまるでフィルム撮影のような仕上がりだし、ズームレンズではなく単焦点レンズを使って、被写界深度を浅くとって、奥行きの深いボケ味を強調する。しかも色調がまるで16㍉フィルムで撮ったような、暗部がブルーに転がる独特のルックで、全体には暖調のカラコレを行っている。
■撮影は戸田義久がメインで、シリーズのルックの基調を決めているけど、いわば、CMの贅沢な画調で統一されているわけ。この手法は佐野Pの次作『エルピス』でも踏襲されていて、基本的には同じベクトルのアプローチだけど、キャメラマンや使用したシネカメラは異なり、映像のルックや色調も全く違うという意欲的な取り組みが行われている。
コメディエンヌ、松たか子
■ドラマ的には、市川実日子が演じるかごめが肝になっていて、第6話で突然死することで、そのことが明確になる。これで第一部が終わって、第7話は1年後のお話になる。松たか子、松田龍平との永遠の三角関係がテーマであったことがはっきりする。しかも、大豆田とわ子の母親までが、、、という真実が最終回で明かされる。最近のドラマはホントにLGBTQ流行りで、『おっさんずラブ』とか『きのう何食べた?』(ちなみにメインDは中江和仁で、本作と同じ!)とか、ホントにそんなお話地上波でやってるの?やっていいの?と呆れる(?)ドラマが大流行ですけどね。
■松たか子は『カルテット』の犯罪の影を背負った女から、完全にコメディエンヌに変貌して、ひたすら快調に疾走する。これは凄い。日本のコメディエンヌの金字塔ではないか。一方、2回めの結婚相手を演じる角田晃広という人を始めて認識したのだが、べらぼうに旨いので舌を巻いたし、最終的にあまりの小心ぶりが「逆に」カッコよく思えてきた。役柄は「器の小さい男」なんだけど、そのいじましさも含めてわれらの仲間って気がする。松田龍平や岡田将生はおれたちの隣にはいないからね。小劇団の演劇人かと思いきや、東京03というコントの人。たしかにコントの人は昔からドラマに適応力は高いよね。
■まあ、それにしてもこれだけ贅沢な大人のドラマは珍しいし、特に地上波では孤高の域だよね。坂元裕二もよく書いたけど、このところの佐野Pのクリエイティブに関するコントロールのさじ加減は絶妙だと思う。単なる予算管理や調整役のPではなく、創造的に口を出すPとして、そのクチの出し方や、その内容が、並じゃないと思う。