本当の家族ってなんだろうね?安藤サクラが凄かった『万引き家族』

基本情報

万引き家族 ★★★★
2018 ヴィスタサイズ 120分 @アマプラ
撮影:近藤龍人 照明:藤井勇 美術:三ツ松けいこ 音楽:細野晴臣 原案、脚本、編集、監督:是枝裕和

感想

■団地群の谷間に残る廃屋のような平屋に棲む5人の家族は低賃金労働と国民年金と万引きでかつかつの生活を続けていたが、それでもなんだか楽しそうな生活を送っている。でも、家族には大きな秘密があり、成長した少年は万引きに罪悪感を覚え始める。。。

■散々話題になった是枝監督の代表作だけど、さすがに優等生的によくできているし、誰が観てもわかりやすいし、日本のシビアな現代を直截に描いているし、文句がないわけではないけど、端的にいい映画ですよ。例えば大島渚の『少年』は参照されていると思うけど、大人たちの描き方が根本的に違っていて、是枝監督はとても視線が優しい。ダメな大人たちを安易に(?)糾弾しない。リアルに考えると、大島渚というか田村孟くらい、シビアに描くところだけど、なぜか甘くて、でもそれゆえに見やすい映画になっている。嫌な感じにならない。そこは、昔の日本映画との違いだと思う。

■なんと主演のリリー・フランキー演じる日雇い人夫で万引き犯のダメ男も、非常に優しい男として描かれ、『少年』の父親のように作者に否定されるべき主義主張を背負ってはいない。万引き被害を受けながら、大目に見ている駄菓子屋の主人(柄本明)なども、かなり理想主義的、懐古的に描かれる。そこは是枝監督の戦略的な優しさだと思う。もっとリアルに突き放して描くことはできるはずだから。

■ネグレクトされた子どもの誘拐というモチーフでは明らかに坂元裕二の『Mother』を意識していて、その証拠に後に『怪物』で坂元裕二と組むことになる。『Mother』は古臭い母ものドラマだったけど、そもそも坂元裕二は古臭い母ものドラマの歴史そのものを知らないから新鮮な気持ちで取り組んだわけだろう。『Mother』には天才子役の芦田愛菜がいたから、そこに寄せていけばお涙頂戴になったけど、本作はさすがにそのアプローチは取らない。でも、主役の少年にはちゃんと美少年を据えるところは、是枝監督も商売を意識している。

■とにかく樹木希林とか安藤サクラにドキュメンタルな演技を要請して定着させたところは並の仕事じゃなくて、ひたすら見惚れる。樹木希林は当然としても、あまりに凄いし、安藤サクラも天賦の才能を自然と発揮している。安藤サクラなんて、事細かな演技指導なんて必要なくて、現場にポン置きでほとんどできてしまう人だと思うけど、その底力(芸能の血)をいかんなく発揮する。逆に『ゴジラ-1.0』での浮きまくった芝居と科白が、いかに山崎貴の無理くりな歪んだ演技指導によるものかがよく分かるというもの。逆に凄いな、山崎貴

■これが昭和時代なら、大塚和が製作する日活映画などで、少年たちの置かれた厳しい現実を直視しながらも、それでもこれからは今よりは良くなるはず!という楽天的な終わり方ができたのだが、本作もそうだけど、現実にある問題点や矛盾を抉って、でも、それがやるせない嘆息しかもたらさないというところが近年の映画の特徴。実際にみなそう思っているから、そうなんだけど、そこにはもう一つ無理くりでも飛躍が欲しかった気はする。

■寄せ集めの疑似家族が一時的に微妙なバランスを保って、血の繋がりによらない仮の繋がりによる微妙に幸福な状態を実現するが、そのバランスが崩れると、もとどおりの矛盾だらけの現実社会の柵の中に戻されるしかない。それが個々人の幸せには繋がらなくても、それが社会制度だから。そんな現実社会の限界を静かに訴える力作。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし、とか。本当の家族って、なんだろうね?

■ちなみに本作はあえて35㍉のフィルム撮影が行われている。ただ最近は、シネマカメラ(デジカメですよ!)でも適切なLUT(ルックアップテーブル)を適用すると、映画館で観てもほとんどフィルム撮影と見紛えるルックが得られるようになったから、そりゃ廃れますよね。でも、シネマカメラで撮りながら、あえて解像度なんかを犠牲にしてフィルムっぽく調整するというのは、倒錯的な気もするけどね。


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