横山秀夫にしては少々甘いけど、さすがに傑作!横山秀夫著『半落ち』

■映画は封切り時に観ていたのですが、原作小説をやっと読みました。妻を殺して自首した警官は素直に自供するけど、なぜ完落ちではなく、半落ちなのか?アルツハイマーを発症した妻を殺害して、自首するまでの二日間にどこで何をしていたのか?歌舞伎町に行ったという情報は本当なのか?その真意はなにか?ーその真相部分については、ほとんど忘れてました。なので新鮮に味わうことができました。

■妻を殺した警官は自分では何も言わない(と心に決めている)ので、事件に関わる刑事や検察官や裁判官や新聞記者や刑務員たちが、その半落ちの真意について思いを巡らせる構成の巧さが、やはり出色。もちろん、同様の趣向は過去のミステリー小説にもあると思うけどね。

■警察という官僚組織内のえげつない駆け引きや確執をヒリヒリするくらいリアルに描いては当代一流の横山秀夫なので、他の警察小説のそのえぐさに比べると本作は大分甘いと感じるけど、よくできた小説ですよ。ちょっと甘めなヒューマニズムなところが受けるはずですね。実際映画化されてヒットした。

■小説としても当然ヒットして、直木賞候補になっていたけど、受刑者が◯◯◯◯のドナーになれるのかという点で疑義が呈されてひと悶着あったらしい。ということも初耳だった。今回初めて知りました。ドナー制度の制度の趣旨としては実際、ありうるシチュエーションで、否定しなければならない合理的な理由はないとたしかに思うけど、官僚主義に阻まれて実務的には相当ハードルが高いだろうとも感じる。小説家としてはなかなかギリギリのところを攻めているのだけど、そこが小説の醍醐味なので、ありえないとか無理とか言って否定してしまっては、いちばん肝心な想像力の根幹を否定することになりかねないよね。面白いことを思いつくことが創作には重要なのでね。いうても、直木賞なんて、面白い小説(大衆文学)を顕彰する賞なのでね。十分に堪能しましたよ。

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