一方NHKの「クライマーズ・ハイ」はちゃんとDVDでも観られるからありがたい。後半は石原さとみのエピソードが取ってつけたような唐突さで、どうも原作そのままらしいのだが、違和感がある。それに比べて、事態がどんどん白熱してゆく前半(清水一彦演出)は横山秀夫の独壇場という、おっさんたちの職業倫理と自分自身の存在証明を賭けた舌戦が凄まじく、特に深夜の焼肉屋の場面は、近来稀な名シーンといっていいだろう。個人的にはあまり好きになれない佐藤浩市の演技にも唸るしかないし、受けて立つ岸部一徳の珍しく熱い演技は名演と呼びたいほどだ。男どおしが真正面から激突する様は、もはやアクション映画の域に達している。社長派の局次長を演じる塩見三省も、近年めっきり渋い性格俳優に変身して、素晴らしい曲者オヤジを演じてくれる。
60歳の初老の姿を演じる佐藤浩市のメイクがぜんぜんなってない(何故日本の特殊メイクは老けメイクが苦手なのか?)とか、難癖も付けられるし、締めくくりは妙に甘いと思うが、働くオヤジたちの意地を賭けた激突と、そのなかでも手にしたものと取りこぼしたものをちゃんと描き出しているところにドラマとしての価値がある。
【補遺】
原作本を読んだ。テレビ版でオミットされたエピソードを探るのも興味深いが、当たり前の話だが、主人公の心理の流れが綿密に描写されている点が読みどころだ。実際、原作を読んでやっと納得できた部分も多い。群馬での福田赳夫と中曽根康弘の上州戦争に絡む描写は、テレビだけではわかり難い。テレビ版では後半で赤井英和の存在感が霞んでしまったが、当然原作では植物人間状態になったあとも、謎解きがあり、存在感を誇示し続けるわけですな。ラストの「こころ」の投書をめぐるエピソードも、原作で読むと、エピソード間の関連性が説明されているから、納得しやすい。
様々な対立要素を詰め込んだ大作だが、世代間対立の部分が興味深く、その意味で焼肉屋論争の場面はテレビ版に生かされたが、御巣鷹山の地獄を見た神沢を巡るエピソードのボリュームが薄くなったのは、やむを得ないのは百も承知の上で、残念な気がする。