小松左京著『霧が晴れた時』

小松左京追悼のため古本を買ってきた。傑作「くだんのはは」をはじめ、自選傑作集の冠に偽りはない読み応えのある短編集だ。特に「影が重なる時」は初めて読んだので感慨もひとしお。落合正幸が「世にも奇妙な物語」で映像化していたのだが、あれも傑作だった。あのエピソードは小松左京の映像化でもトップクラスの完成度だったと思う。

■「秘密(タブ)」というのも鮮烈な短編で、正味の恐怖小説だ。呪いというものに対する思索という意味でも鋭いもので、知る人ぞ知る傑作といったところだろう。いったん呪いが機能すると、途中で止めたり解除することなどできず、粛々と呪いの定めたとおり最後まで付き合うしかないのだという解釈は斬新なものだ。そして、すべてを忘れて、何もなかったことにするしかないのだという解釈は、非常に刺激的だ。

■「まめつま」とか「逃ける」は、小松左京ストーリーテラーとしての技量がよくわかるホラー小説で、非常に堪能した。どちらも捻りが見事に効いている、短編小説の見本のような話だ。

■そして、「くだんのはは」は今、この時期に読むのに相応しい恐怖小説であり、戦争小説である。何度読んでも怖いし、戦争中の庶民の生活が簡潔かつ鮮烈に実感される。ところで、この屋敷の離れに幽閉されたくだんの描写には、豊田四郎の名作「小島の春」の幽閉されたらい病患者の表現からの影響が見られると思うのだが、賛同者はないだろうか。

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