クライマーズ・ハイ ★★★

クライマーズ・ハイ
2008 ヴィスタサイズ 145分
MOVIX京都(SC2) 
原作■横山秀夫 脚本■加藤正人成島出原田眞人
撮影■小林元 照明■堀直之
美術■福澤勝広 音楽■村松崇継
VFXスーパーバイザー■小田一生(NICE+DAY)
監督■原田眞人

■1985年、御巣鷹山日航ジャンボ機墜落事故の全権に任命された地方紙の遊軍記者の、焼け付くほどに熱い数日間の奮闘を描く社会派大作。まっさきに思い出すのは、ロン・ハワードの傑作「ザ・ペーパー」だ。
■「金融腐食列島・呪縛」のあの原田眞人なので、キャメラワークとか編集に技巧を凝らし過ぎるのではないかと危惧していたが、予想していたよりはずっと大人しく、一般の観客(特に高齢の)にも観やすい作りになっているし、ドラマの骨格としては確かなもので、佳作と呼んでもおかしくはないのだが、今ひとつ心の奥にずしりと重く響くものが無いので、水準作としておく。長編小説の映画化としては、十分に成功作と言えるのだが、本評が今ひとつ歯切れが悪いのは、ついついNHKのドラマ版との比較で観てしまうせいだ。
■新聞の記事等によると、脚本の制作には原作者から高いハードルが課せられたようだ。単なるダイジェストにはしてくれるな、時系列は組み替えないでくれ、監督らしさを出してくれ等々。加藤、成島コンビの脚本を、原作者の注文を受けて監督が改訂したものが完成稿になったらしい。なにしろ、NHKのドラマの完成度が高かったため、映画化のハードルも上がってしまったということだろう。
■原作から望月彩子の投書のエピソードを削ったのが大きな取捨選択で、新人記者望月亮太を死なせてしまったエピソードもオミットされ、そのかわり神沢のエピソードに融合してある。エピソードの取捨選択としては順当なところだが、テレビ版と違って逆に主人公の母親のエピソードをかなり大きく取り扱ったところは、結果的には難しい選択だったという気もする。
■物語のテーマが父と息子の絆というのはわかるのだが、完成した映画では主人公と息子のエピソードの前振りが簡単すぎて、ラストシーンとの呼応が十分に機能していないのが最大の弱点だろう。このあたりはテレビ版のほうがちゃんと描けている。主人公の家庭がまず描かれて、日航機事故があり、その結果家庭がどう変わったのかという脚本の基本構想は十分に実現されていない。せっかくニュージーランドまで出かけていったラストシーンも、観客にとっては、ドラマ的求心力を欠く印象になってしまうのだ。地元紙の意地をかけて働いてきた主人公のドラマのラストが唐突にニュージーランドでは、観客は単純に呆気にとられてしまうのだ。
■そうした父と息子のドラマを仲介するのが営業部の安西耿一郎が倒れるエピソードなのだが、テレビ版で赤井英和が滋味豊かな演技を見せて存在感があったのに比べると高嶋政宏では説得力が無さ過ぎるし、独り言を呟くような台詞が聞き取りにくいのも困りものだ。原作では中心的なエピソードだが、映画版ではこのエピソードがあまり有意義に機能していない。
■テレビ版で圧倒的な迫力を示した焼肉屋の対決場面は、和風の座敷に設定を変更してほぼそのまま再現されているが、なにしろ等々力を演じるのが遠藤憲一なので、チンピラヤクザの喧嘩にしか見えないのは残念。遠藤憲一は使いようによってはいい役者だと思うが、これはミスキャストだろう。テレビ版では岸部一徳が完璧に演じて、リアルに呼吸する新聞記者像を表現していたのだが、全体に映画版は脇役の配役が小粒過ぎるのだ。テレビ版での塩見三省大和田伸也といった地味な役者がそれぞれ所を得て生き生きとスケール感ある人間像を打ち出していたのに比べると、映画版は脇役の人間像が小さく、主役の引き立て役として収められている。編集部での舌戦にあまりシリアスな緊迫感が無いのもそうした配役構成が原因に見える。実際、演出姿勢としても、ギリギリに追い詰められた新聞人の姿をユーモアを交えながら余裕を含めて描いており、これでクライマーズ・ハイに達しているのか?と疑問に感じるところも少なくない。
■そのなかでも、役得といえるのが営業部の伊東を憎々しげに演じる皆川猿時とか、ほんとうの脇役としてピンポイントで目立つでんでんとかキビキビした動きが心地よいマギーといった役者たちで、大物勢が苦しいのを尻目に、実に生き生きしている。個人的には苦手な堤真一だが、意外にも癖の無いいい役者ぶりで、ちょっと見直した。
■また、クライマックスに往年のハリウッド映画(「地獄の英雄」)を引用するというのも、いかにも原田眞人らしいアメリカンテイストだが、あまり日本の観客にとっては普遍性のない説明ぶりはドラマツルギーの点から如何なものかと思うぞ。マスコミ人としての倫理観を強調する狙いはいいとしても。事故原因のスクープを打つかどうかというクライマックスの主人公の判断にも、クライマーズ・ハイが解けた時に一気に恐怖が体を包み込むという重要なモチーフが生かされておらず、いまひとつ突っ込み不足に感じる。
■撮影は事件当時の過去の部分(つまり映画のほとんど)を脱色した色彩タッチで描き出すのだが、これも一種の銀残しなのだろうか。ただ、あまり硬い暗部の引き締まったタッチにはなっておらず、なにより肌色に赤味が強すぎるのが気になって仕方なかった。正直、キャメラはあまり褒められない。なぜか技術スタッフはVFXも含めてベテランの大物を避けて編成されているが、これは製作費の都合だろうか。まあ、キャスト自体もかなり小粒で、大作感が無いのが寂しいのだが。
■製作はビーワイルドほか、制作はビーワイルド。

※原作小説は必読の傑作。映画版もテレビ版も、原作を読まないと細かい部分がわからないのですよ。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

参考

↓ 個人的には極度に男臭いNHK版がお気に入りです。
maricozy.hatenablog.jp