大人の事情がてんこ盛り!でも意外とおもしろい『空母いぶき』

基本情報

空母いぶき ★★★
2019 スコープサイズ 134分 @アマプラ
原作:かわぐちかいじ 脚本:伊藤和典長谷川康夫 撮影監督:柴主英高 照明:長田達也 美術:原田満生、江口亮太 音楽:岩代太郎 VFXプロデューサー:浅野秀二 監督:若松節朗

感想

■政治がらみの素材だし、漫画原作モノだし、軍事モノだし、福井晴敏が絡んでいるし、いろいろとうるさ型が多い企画なので、悪い評判しか聞かなかったけど、単純に冒険活劇映画としては悪くないですよ。十分、おもしろいと思います。制作プロダクションがデスティニーで、こうした冒険活劇原作を好んで取り上げるわりに散々腰砕けの改変をして骨抜きにしまうので有名な制作会社でもあり、正直劇場で観ようとは思わなかった。当ブログではかねてから「デスティニー・クオリティ」と呼び習わしているけど、あまり期待しちゃダメよという印でもある。

■ただ本作は脚本を伊藤和典が書いているので、それなりに意欲作だろうとは感じていた。特撮監督が誰なのかも気になっていたが、一向に話題にもならないし、意外とVFXは少ないのかなとか。実際、ちゃんとサスペンスが機能しているのは伊藤和典の構成力のおかげだろうし、特撮監督はいないのに、VFXシーンは大量にあり、空中戦だって海底戦だってふんだんにある特撮大作だった。しかもVFXIMAGICA Lab.が主担当で、特撮監督は立てていないので、クオリティコントロールは誰が行ったのか不思議。実際、総じて特撮は悪くないけど、ビジュアルな疑問点も少なくない。これまでデスティニー制作の戦争映画では神谷誠とか松本肇とか佛田洋が特撮監督を担ってきたところだけど、ついにポジションが廃止されてしまったわけですね。

■もともとは中国が尖閣諸島に侵犯してくる話を架空の国に変更するのは仕方ないとしても、最終的に国連軍が介入するとか、コンビニの店長のエピソードとか、なんとなく指向性が東宝映画じゃないかと感じた。評判の悪いコンビニのエピソードだけど、あれは『世界大戦争』の幼稚園の場面を参照しているのではないか。クリスマスイブの話にした工夫も含めて、作劇としては全然悪くないと思う。

■空自のパイロット出身でエリート意識が顕著で、国民を護るためなら自衛官は犠牲になっても構わないと、戦後スキームの一線を踏み越えそうな危うさを感じさせる西島秀俊と、あくまで保守的な「海の男」佐々木蔵之介専守防衛の考えかたで対立するところが見せ場で、これも悪くない。実際、『ガメラ 大怪獣空中決戦』でギャオスが自衛隊機を撃墜する場面が航空自衛隊により却下されて欠番になった経緯があるくらい、航空自衛隊はエリート意識が高くて、独立独歩な体質らしい。でも本作の佐々木蔵之介は儲け役だと思うなあ。西島秀俊の役柄が多少空想的な役柄なのに対して、あくまでリアルな職業人を演じるやりがいのある役だ。ただ、ちょっと痩せ過ぎで不健康に見えるのは残念。

■閣内タカ派(外相だよ!)の意見に対して、最初は弱腰の佐藤浩市の首相が「今回の衝突はあくまで局所的な戦闘であり、日本は何があっても戦争だけはしないんだ」という姿勢を貫き通すあたりも、なんだか東宝映画的な清潔さで、平凡な首相で終わるはずだったのに『日本沈没』の危機対応にあたることになる丹波哲郎を彷彿させる役どころだ。きっと伊藤和典東宝映画の名作を参照しながら書いたんだと思うなあ。

■と思ったら以下のようなインタビュー記事があり、上記の憶測は分がちょっと悪いなあ。でもコンビニのエピソードは書いてるんだね!
v-storage.bnarts.jp

■脇役の配役はなかなか苦しくて、いろいろと大人の事情が感じられるところ。なぜそこに斉藤由貴が?とかね。むしろ小泉今日子じゃないか?とか。でも一番の謎はネット記者役の本田翼という女優で、非常に重要な役なのに、まったく気持ちができていないし、役柄を理解できないまま演じている気がする。この映画の一番の欠点はこの配役の謎だ。それだけはこの映画を観た全員が感じる共通の疑問点だろう。

参考



さいきんデスティニー制作映画もクオリティが上がっている気がします。昔はひどかった。
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『宣戦布告』はデスティニーの制作ではありませんよ。多分、映画化を狙っていたはずだけど。
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若松節朗の映画は嫌いじゃありませんよ。大人の事情が絡まり合って足を引っ張る大作映画を無難にまとめる大作職人。
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洋画ですが、『トータル・フィアーズ』は好きなんですよ。何回も観ました。ジェリー・ゴールドスミス効果が大きい気もする。
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