この続きはアマプラで!?今更感がぬぐえない誤算だらけの謎映画『沈黙の艦隊』(感想/レビュー)

基本情報

沈黙の艦隊 ★☆
2023 ヴィスタサイズ 113分 @イオンシネマ京都桂川(SC3)
原作:かわぐちかいじ 脚本:高井光 撮影:小宮山充 照明:加藤あやこ 美術:小澤秀高 音楽:池頼広 VFXスーパーバイザー:西田裕 CGスーパーバイザー:宗片純二 監督:吉野耕平

感想

■この企画を聞いたときは、てっきりデスティニー制作かと思っていたのだが、実は『キングダム』などでいま一番勢いがあるクレデウスの制作。その意味では、デスティニーの犯しがちな過ちはみられないし、映像のルックも全く貧乏臭さがないのが凄いのだが、そもそも原作のほんのはじまりの部分を映画化したもので、お話がまったく完結しない。つまり、一本の映画としての体をなしていない。通常、続きものの映画でも、一応の完結性を持たせないと、当然ながら映画を観たというカタルシスを味わえないので、そこは配慮して作るものだが、本作は、アマゾンプライムの製作なので、この続きはアマゾンプライムビデオで観てね!というプロモーション映画にしか見えない。という意味で、商業倫理的に問題があると感じる。

■お話はいまさら書かないけど、なんとも実に退屈な映画で、途中で眠くなる。そもそもかわぐちかいじのこの手のお話は、主人公が一種の超人あるいはサイコパスで唯我独尊的な人格なので、感情移入の余地がない、というか、人間ではなく、ドグマとして描かれるのが特徴で、そこが映画にしたときに、まったく映画的な面白さに翻案できない。対して、主人公の暴走を止めようとする副主人公が当然ながら人間的で感情移入の対象となる。ということは、映画の主人公は副主人公になるべきなのだ。本作では大沢たかおに対する玉木宏だし、『空母いぶき』では西島秀俊に対する佐々木蔵之介ということになる。そこに映画的な大胆な翻案が求められるべきだが、原作に引きずられると、映画としては退屈になる。

■本作は『空母いぶき』よりもさらに映像のルック的には充実していて、ハリウッド映画並といっても過言でない。VFXはオムニバス・ジャパンに、白組以下のVFX工房が参加した大所帯で、潜水艦も第7艦隊もCGだし、非常に見応えはある。でもね、そもそも潜水艦の戦闘って、海中の光の届かない暗いところで地味に駆け引きしてますという世界なので、映像的には頑張っても、画面はひたすら地味になる。本作もそこはリアル志向で頑張っているけど、洋上で戦艦が海戦を繰り広げるような派手な痛快さはそもそも求めることができない。これが劇画なら、そこは自由になんとでも描けるので、なんとなく痛快に見えるけど、映画でリアルに描くとひたすら暗くて地味。ここは大きな誤算。

■配役もなかな微妙なところだが、一番見どころは実質的な主役であるべき玉木宏の面構えが実は非常に映画的だったという点。独立国「やまと」こと最新鋭原潜「シーバット」を追う通常のディーゼル潜水艦の内部のルックはリアルを通り越して、太平洋戦争中の潜水艦なみの汚しが入って、照明も暗い。その中で、玉木宏の痩せて骨ばった顔面に男臭い陰影が生まれる。これはなかなの見もので、以前から独特の台詞回しに癖が強すぎて問題だなあと思ってきたが、戦争映画に実に映える男だったのだ。まさに『空母いぶき』の佐々木蔵之介と似た配役なんだけど。

■その副官が水川あさみで、明らかに目立つ儲け役だけど、演技の質の問題でどうもいまいちハマらない。もう少し、しゃきっと演じられないものか。防衛大臣夏川結衣なのは、『シン・ゴジラ』の余貴美子を意識したものだろうが、これも持ち味が柔らかさにある人なので、ちょっと締まらない。官房長官江口洋介はなにかのコスプレなのか、変な髪型で登場するので、前髪が気になってしかたない。ハマればいい役者なのになあ。例によって、黒幕政治家として橋爪功が登場するけど、日本演劇界ではホントにこの年代の重鎮的な役者が払底しているようだ。いつも橋爪功頼み。昔の低予算東映映画なら内田朝雄がやったような役どころ。左翼系の大作なら滝沢修とかだけど。それにしても実に変な演技で、ほぼ意味不明な怪演。もちろん、橋爪功は名優で、なんでもできる人なので、なんだか真面目にやってられないよみたいなヤケクソ感を感じる。

■それに、この原作だとアメリカ政府、軍人たちが大量に登場するので、そこはそれなりのクラスのプロを配置しないと観ていていも乗れないよね。知らない人だけど、この人なんでこんなに演技上手いの?なんてレベルまで行けば御の字だけど、さすがにそれはハードルが高い。本格的にやるなら米国側に共同監督を置くべきだよね。最近の韓国映画ならハリウッドスターを起用するからね。

■クライマックスは「シーバット」と「たつなみ」と第7艦隊の潜水艦群との攻防で、VFX的には見ごたえがあるけど、政府会議とのカットバックの意味がよくわからず、なんらサスペンスも高揚感も生まないのは大失敗。編集は売れっ子の今井剛なんだけど、大失敗。いかにも今どきのハリウッド映画的にどんどん鳴らす劇伴も全く新機軸がなくて、メリハリを生まない。最後に流れるテーマソングも思いっきり場違いで失笑を誘うほど。

■嫌な予感はあったのだが、なぜわざわざ観に行ったかといえば、監督が吉野耕平だったから。あの大変な傑作『ハケンアニメ!』を撮った逸材。なにしろ、完結性のないエピソードを任せられた不運もあるけど、今回は完全に期待外れでした。でも、きっと今後まだまだすごい映画を撮ってくれるはず。今後に期待する!


参考

これを観ると吉野耕平が凄いのが理解できると思います。まあ脚本も配役も良かったんだけど。
maricozy.hatenablog.jp
玉木宏と潜水艦といえば、これ。いわゆるデスティ二ー・クオリティの典型的な映画で、失敗作。
maricozy.hatenablog.jp
こっちの方がまだ楽しめる。意外と嫌いじゃない。
maricozy.hatenablog.jp
maricozy.hatenablog.jp

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