『亡国のイージス』

基本情報

亡国のイージス
2005/CS
(2005/7/29 MOVIX京都/SC10)
原作/福井晴敏 脚本/長谷川康夫飯田健三郎
撮影/笠松則通 照明/石田健司
美術/原田満生 音楽/トレバー・ジョーンズ
特撮監督/神谷誠 視覚効果/泉谷修
監督/阪本順治

感想

 今年の福井晴敏原作三部作のラストとなる本作は原作の持つ思想性と活劇性がどちらも中途半端に踏襲された不発弾となっているように見える。そもそも原作自体が思想性に関しては生固で、背伸びしている印象だったが、映画ではそうした部分が夾雑物として活劇性を阻害しているようだ。

 まず映画としての不備は、寺尾聡のキャラクターやチェ・ミンソの登場する意味が不明といった説明不足の箇所が多々あり、サスペンスを生み出すことに失敗しているところにあるだろう。サスペンスと活劇を生かすためには原作の政治的メッセージを完全に除去すべきだったのではないだろうか。

 阪本順治の演出もアクションの見せ方は以外にも未熟で、本物のイージス艦を使用したロケもキャメラ位置が限定されてしまうため効果的なカッティングが駆使できない制約を感じさせる。うらかぜ撃沈の中盤の大きな見せ場も遠景で爆炎を見せるだけという不誠実さで、真正面から活劇大作を打ち出そうとする意欲が疑われる。ラストのいそかぜ轟沈のスペクタクルを謳いあげるために抑制しているのかと思いきや、かなりラージスケールのミニチュアを使用して合成素材を撮ったはずの沈没シーンは妙にスケール感の無い、質感に乏しいデジタル合成カットが失笑を誘うという醜態を晒し、根本的に観客の見たいもの以上のものを見せるという演出姿勢が見当たらない。

 それは阪本順治の責任でもあろうし、特撮監督の神谷誠の誤算でもあったのだろう。「大怪獣総攻撃」でも巨大なミニチュア艦船を使用してCGの海面とをデジタル合成した対費用効果の低い未熟なカットが見られたが、今回もあのラストのフルショット程度なら2D素材で十分ではないかと思われてならない。私がプロデューサーならミニチュアの使用を許さないだろう。画コンテを庵野秀明が手掛けているが、特撮の見せ方を知らない阪本順治のせいで全く生かされていない。

 ただ、主演を真田広之が演じたことで辛うじて見ていられる映画にはなっている。この映画は真田広之に救われている。佐藤浩市は大体いつもこんなものだが、中井貴一が得体の知れないテロリストを硬派に演じきり、意外な存在感を見せつける。案外サイコな役柄などがハマるのではないだろうか。 

 結局、福井三部作の共通する胡散臭さは、アクション映画に浅薄な政治的な思想性を持ち込んだところにあるのだろう。無理してそんなことを考えるまでも無く、優れたアクション映画は思想性を具備するものなのだ。

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