柘榴坂の仇討 ★★☆

柘榴坂の仇討
2014 ヴィスタサイズ 119分
ユナイテッドシネマ大津
原作■浅田次郎 脚本■高松宏伸、飯田健三郎長谷川康夫
撮影■喜久村徳章 照明■長田達也
美術■小川富美夫 音楽■久石譲
VFXプロデューサー■浅野秀二 VFXスーパーバイザー■鹿住朗生
監督■若松節朗

■制作がデスティニーだったので予想したとおりのゆるい時代劇だった。技術スタッフは大ベテラン陣で、撮影も照明も非常に立派なもので、安心して観ていられるが、デスティニー制作の時代劇は基本的に年寄向けの異常にゆっくりした編集に特徴があり、作劇も胃にもたれないように薄味にしてある。個人的にはそこが非常に不満であって、本作も脚色のしかたによってもっと厳しいテーマ性とドラマ性を盛り込めたはずなのに、それはせず、ぼんやりした主君への忠誠心を単純に美しいと褒め称える気持ち悪い時代劇になっている。まあ、原作がそうらしいから仕方ないわけだが、日本映画には残酷時代劇や封建制批判時代劇が多数存在したわけで、武家社会に対するそれらの掘り下げが無かったかのような批判精神の欠如は嘆かわしい限りだ。

中井貴一は朴訥さが悪くないし、藤竜也が登場するとスクリーンが活気付くのだが阿部寛は完全に割を食って精彩が無いし、広末涼子に到ってはまともなドラマが用意されていないので曖昧に顔を動かすしかやることが無いという気の毒な状態。しかし、主人公はひたすら役立たずとして描かれており、そのことが封建社会の残酷さとして描かれず、それでも武士階級の幻にすがって明治の新世界に正気を保っていることを単純に美化するのはどうかと思うのだ。武士階級は一握りの人数に過ぎず、誇りある生き方をしたのは武士階級に限った話ではないはずだからだ。

■確かに主人公も最後には明治の時代に生きることを諒解するのだが、井伊直弼があまりに一面的に描かれているせいで、どうしても主人公が単純に見えてしまうし、中盤の俺も元武士、恐れ入ったかの場面が、たちが悪すぎて大きな雑音になってしまう。あの場面は無いほうがいい。

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