聯合艦隊司令長官 山本五十六 ★★★

聯合艦隊司令長官 山本五十六
2011 ヴィスタサイズ 140分
ユナイテッドシネマ大津
脚本■長谷川康夫飯田健三郎
撮影■柴主高秀 照明■長田達也
美術■金田克美 美術補■斉藤岩男 音楽■岩代太郎
VFXプロデューサー■浅野秀二 VFXディレクター■鹿住朗生 特撮監督■佛田洋
監督■成島出

東映制作ではなく、デスティニーの制作なので、低予算ぶりを心配していたのだが、さすがに実力派のスタッフだけあって、映像に貧乏くささは無く、重厚なタッチで大作感を醸し出している。一番心配した脚本も、意外によく頑張っていて、山本五十六人間性を掘り込もうとしている。

■VFXについては、「男たちのYAMATO」の方が明らかに金がかかっていて、質感も高い。佛田洋が指揮したミニチュア撮影もスケールが限定されている。クライマックスの一式陸攻の場面はミニチュアの質感が活きているが、CGの質感がまずく、合成カットも違和感のあるカットが目立った。真珠湾はあっさりで、ミッドウェイ海戦に重点が置かれ、VFXもここが一番充実している。ドラマ的にもミッドウェイ海戦が一番盛り上がり、阿部寛山口多聞を演じて大変な儲け役。カッコ良すぎですわ。

■配役は予算規模に応じて小粒だが、主演の役所広司が五十六像を誠実に演じて、独特の人間像を生み出している。この映画はそこが成功しているので、他の瑕があまり気にならない。脇では香川照之が目立つものの、演技的にはオーバーアクトに属するだろう。非常に重要な役なのだが、戯画化が過ぎたと思う。

■本作は戦争を煽り立てた大新聞の責任を大きく扱っている点が過去の戦争映画のなかでもユニークで、それを香川照之が象徴しており、演技的には疑問があるものの、他の戦記映画との区別のためにも、着目点としては良かったと思う。五十六が若い新聞記者に語りかけるメッセージが、ストレートに映画の主張になっているのも、わかりやすくていいと思うぞ。ただ、本来観るべき若い観客が皆無というのは困ったことだ。メッセージを届けるべき対象が劇場にいないのだ。

ミッドウェイ海戦を劇的に盛り上げるのは、南雲司令官(中原丈雄)のエピソードで、五十六の作戦と軍令部の命令の板ばさみで判断を誤るという部分。笠原和夫も旧帝国軍の悪弊として複数命令(軍隊に限らず組織編成のまずい会社とかでもありがちなアレ!)をあげていたが、まさにその弊害が大きくクローズアップされている点が今回の脚本の注目点。作戦失敗後に、五十六と茶漬けを食うシーンは、今後名シーンと呼ばれるかもしれない。(ここは、史実じゃなく、脚本の工夫だと思う)

■文句をつけるとすれば、長官機撃墜の場面が、まるで感動的にならなかったことだ。VFXの質感に問題があったこともあるが、妙になよなよしたスコアの問題が大きかったと思うぞ。円谷英二とほぼ同じカットをVFXで再現した意欲は買うものの、本編の演出が追いつかなかった。

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