感想
■京都女子大で実際に起こった学園紛争事件をもとに小説化した阿部知二の小説「人工庭園」をさっそく映画化した木下惠介の意欲作。ちなみに、本作の次にクランクインしたのが『二十四の瞳』なので、木下最盛期の仕事。
■大きく三部構成になっていて、第一幕ですでに女子寮のまるで監獄のような強権支配に対して爆発寸前の状態で、しかし第二幕で冬休みの場に入り、女学生たちの実家での私生活が描かれる。ここでいったん頭を冷ましておいて、第三幕では主人公の自殺事件を通じて、最終的な学生蜂起に至る、立派な学園闘争映画。
■主人公は、一旦銀行に就職しながら改めて大学に入り直したけど、勉強についていけないので、就寝時間後に寮のトイレでこっそり勉強しているような不器用な女学生で、寮のルールが守れないことを寮監から厳しく叱責され、最終的には寮生たちからも孤立させられ、神経衰弱になり、よりによって教室で自殺することになる。一方で、当初から大学の学生支配の体制に批判的で、でも大学のスポンサーでもある良家の子女なので、その闘争姿勢のあり方が、ガチガチの党派左翼の女学生から批判にさらされるのが久我美子。彼女をブルジョアのお遊びと猛烈に批判する党員が、山本和子。でも最終的には共闘するに至り、萌えることになる。このあたりも定番ながら良い見せ場。
■劇中で触れられる京都大学で起こったような事件とは、いわゆる「荒神橋事件」で、原作小説の発表後に起こったホットな事件なので、映画が自主的に取り込んだ要素。その時に京大在籍中で、同事件にも関与した活動家が大島渚で、この映画の製作時点ではすでに助監督として松竹に入社している。それくらいホットな時事映画でもあった。そしてこの映画を見た大島渚は、木下惠介は松竹の他の老巨匠とは違うと一目置くことになる。
■高峰三枝子演じる封建的な寮監の、過去の恋愛事件の痴情をすべて聞き知っていて、ネチネチと締め上げる美少女・久我美子のサディスティックな性格がきっちりと描かれ、最終的にエグい事実を暴露してとどめを刺す残酷さも、さすがに木下映画で、アッパレ。
■一方、終始湿っぽく愚痴愚痴している高峰秀子は損な役回りで、可愛そうではあるけど、岸恵子や久我美子の自己主張の明確な新時代の女子たちに比べると、明らかに影が薄いし、演技的にも単調であまり芳しくない。
■前作である傑作『日本の悲劇』に続く非常にシビアな悲劇的リアリズム映画だけど、中盤がちゃんと松竹メロドラマになっているのを、すっかり忘れていて調子が狂った。やはり第二幕がちょっと邪魔に見えてしまう。姫路城ロケのあたりは贅沢なものだけど、第一幕と第三幕の学園闘争のプロセスやメカニズムが非常にきちんと描かれているので、これで全編通すべきだったと感じる。第二幕で登場人物の個人的な背景を描きこんでいきたい思いは分かるのだが、いまさらそこに戻りたくないという感覚に、第一幕で追い込まれているからだ。この構成はミスではないかと思う。わからんでもないけどね。