国家百年の大計を乗せて、あゝ国立大学が沈む!NHK土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』全話完結!

【最終更新 2021/6/9】

#1 科学研究はかならず当たる宝くじか?

いよいよNHKで凄いドラマが始まりましたよ。
NHK京都製作の単発ドラマ『ワンダーウォール』で京大吉田寮問題を半実録ドラマとして描き出して京都市民(の一部)をざわつかせた渡辺あやが、またもや国立大学の「今ここにある」諸問題に斬り込んだ!
さすがに今回はNHK全国ネットなので、実録ドラマとはいきませんが、基本的に現実にある事実や諸問題を下敷きにしたうえで、コメディタッチで描きます。じゃないとさすがに企画が通りませんよね。渡辺あや、国立大学になんか恨みでもあるのか?いや、国立大学自体に問題がありすぎるのが問題なのだ。
一般視聴者には、国立大学の役員とかアナウンサー出身の広報担当者の描き方に、政府批判を色濃く嗅ぎ取っている雰囲気もあるし、それは脚本家の意図通りだが、より切実でシリアスなのは国立大学の研究環境をめぐる問題で、渡辺あやの本気もそこにある。
任期切れ間近のポスドク鈴木杏)がラストに投げかける台詞に、その本気度が伺える。研究不正を内部告発した彼女を大学はイケメンの元カレ(主人公ね)にメンタルにケアしてもみ消すように命ずるのだが、

「ホント、権力を持ってる人たちって見下してる人間に対して想像力ないよね。見下すのは勝手だけど、見くびるのはやめたほうがいいよ。(中略)
私は、日本の科学研究にあるべき姿に戻って欲しいだけだよ。(中略)
だから、研究の喜びを取り戻したい、自分と現場に。それだけだよ」

と反撃される。全部そのとおりで、正論です。彼女は学生新聞と通じて、大学当局の工作に対して既に先手を打っていたのだ。
そして、空っぽの主人公は国立大学の今現在抱える最大の問題について、テレビのワイドショーで初めて認識することになる。コメンテーターいわく、

犬山教授「要するにですね、科学研究は今、かならず当たる宝くじのようなもんだと勘違いされてるんです。
国も企業も必ず成果が出て金になりそうな研究に巨額な投資をする。
そして例えば5年で成果を出せなんて求めるでしょう!
しかし研究というのはですね、そうすぐに都合よく結果が出るものじゃないんです。
そのプレッシャーは研究者たちにとって、そりゃ大変なものなんですよ!」

ああ、渡辺あや、そこまで本気で突っ込んでくるのか。。。この人、本気で世論を変えようとしていると思う。凄いとしかいいようがない。そして、変わることを祈って微力ながら応援したいと思う。


#2 謎の沢田教授登場!このひと大丈夫か?

調査委員会の委員長を務める国広富之が心労で倒れるあたりも某大学での出来事を踏襲しているような気がするが、後任の沢田教授はあまりにもありえないと感じる。
その悪ふざけのおかげで(?)研究不正の追求の件もなし崩しになってしまい、鈴木杏はあっさりと退場することになる。
正直、第1話で大上段に構えたにしては呆気ないので肩透かしと感じた。
でも、これで終わりじゃないよね。きっと鈴木杏のリベンジがあるよね??


#3 国立大学は国や企業の専用研究所なのか?

そして、第三話。渡辺あやのテーマ設定は揺らいでいないことが確認できる良エピソード。外国人記者クラブで、言論の自由を巡って大学の姿勢が問われると、昼行灯の三芳総長がついに目覚める。だが、それは総長独裁化の呼び水となってしまうでは?という、さすがにテーマの深堀りが素晴らしくリアル。
正直、三芳総長が大学経営のなかに研究者の良心を発揮するのはもう少し後かと思っていたのだが、早くもその方向が提示された。
それだけでなく、制度上発揮しうる総長の強大な権力を悪用すれば、大学は政府や財界のための研究所と成り下がり、思い通りに操作されかねないという危機意識を盛り込んだあたりもさすが。
このままでは国立大学が「国や企業の専用研究所」にされてしまうという危機感に、なんでダメなんですか?と素朴に訊く主人公に対して、三芳総長とは昵懇の水田理事が応えます。

水田理事「要するに、この世界というのは人間の想像をはるかに超えて複雑であり、将来どの研究が人間の役立ったり、危機を救うかなんて絶対予測でけへん。国も企業もそんなことよりもっとすぐ金にかるような研究を大学にさせたがるし、いつ役に立つかわからんような研究は無駄無駄言われて、どんどん消えていく。ぶっちゃけ、こら相当やばいことやと学者はみんな内心思てんやなあ。世間が思てくれんもんで、あいつもなかなか苦労しとるわけや。」(ドラマより採録:太字筆者)

映画やドラマのいわゆる名台詞信仰には懐疑的な立場で、原理的にはそんなものいらないのは百も承知ながら、今回も非常に重要な問題が的確に台詞化されていたので、思わず紹介したくなる。まあ、単なる説明ゼリフだけどね。でも実は説明ゼリフは非常に重要なんですよ。
続いて、良心派の室田教授の発言から。

室田教授「でも、本学の三芳総長は以前ある席でこう言っていました。社会はいつどんな危機的状況に陥るかわからない。大学の社会的使命とは、どんな時も自分の頭で考えることのできる人間を、ひとりでも多く輩出することであると。」(ドラマより採録

こんなヴィヴィッドなドラマは渡辺あやしか発想できない。『ワンダーウォール』を書いた経験が大学関係者へのリサーチを後押ししたのだろうなと強く感じる。
クライマックスのキング牧師の名言を引用した場面は、いくらなんでも安易に引用できないので、ドラマを観てくださいとしか言えません!


#4 予言された未来の悲劇!

第三話で一気に三芳総長の覚醒を描いた関係上、第4話と第5話はやる気になった総長とやる気のない、あるいは事なかれ主義で隠蔽体質の役員たちとの対立劇になるわけですね。しかも、大学の研究室から流出した希少な蚊が地元の蚊と交雑し、重篤健康被害をもたらすことが判明、しかも被害の中心地で次世代博の誘致と開催が決まっている大学執行部は、開催ありきで、事件の隠蔽を図ろうとする。
もちろん、ここにはコロナ禍のなかでオリンピック開催を強行しようとする某国(亡国?)政府の無能ぶりが嗤いものにされているのだが、この脚本は多分ちょうど1年くらい前に書かれ、撮影は去年の年末から本年年初にかけて行われたところが、やはり重要で、渡辺あやの危惧する通りにことは運んだわけだ。ドラマの意義は、未来の悲劇を予感することにある、というのは特撮テレビドラマの開拓者だった市川森一が残した至言山際永三が市川森一らと共有した理念だが、まさにそのとおりの刺激的なドラマとなった。
第3話までで国立大学を取り巻くリアルな危機感を一応描ききったので、シリーズ終盤は政権批判の戯画化(蚊?)にシフトチェンジしていくようだ。


#5 「無駄」な研究が光り輝くとき!

ついに集結をみた意欲作だが、不満も残ったよ。
国立大学に内在し、今の世界や政治にも通底する「腐敗」をえぐり出したところは、目の付け所が素晴らしすぎるのだが、第3話までをヴィヴィッドに牽引した国立大学のリアルなヤバさに比べると、第4話、第5話は少々作りごとめいて見えるし、その主張も一般論すぎる気がする。その意味で少々物足りないと感じた。
巨額の研究費を獲得するエリート研究室から危険な蚊が流出し、陽の当たらない万年准教授がひとりで守るボロボロの研究室でその解毒に利用できる蟻の存在が特定される。その皮肉な構図には、第3話で重ねて主張していた台詞がしっかりと呼応しているのだが、そこは非常に重要なので、もっと念押しが必要なところだ。
なんの役に立つのか一見理解できない、無駄にしか見えない研究が、ある日突如必要になる。それはこのコロナ禍のなかでも確認された真理。だから選択と集中」は、人間に何かが見通せると思い上がる危険思想で、人間にはとにかく幅広く投資して何が起こるか予測できない未来に備えておくことしかできないというのが今のところの正しい結論であるということを念押ししておかないと画竜点睛を欠くというものだろう。
オレには渡辺あやの言いたいことは十二分に届いたけど、一般の視聴者にはもっと念押しが必要なのだ。これ以上は言わないけど、きっと年末から来年にかけて色々と受賞するだろうから、改めて、そこは渡辺あやがインタビューなどでガンガン補足してほしいと願う。終わり!

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