中原早苗に聞いてみな!俺たち雑草に大学は何の意味があるのか?大学改革はありうるのか?『学生野郎と娘たち』

基本情報

学生野郎と娘たち ★★★★
1960 スコープサイズ(モノクロ) 91分 @アマプラ
企画:大塚和 原作:曽野綾子 脚本:山内久 撮影:山崎善弘 照明:森年男 美術:松山崇 音楽:黛敏郎 監督:中平康

感想

■60年安保闘争のさなかに撮影された、中平康の意欲作。当時のマスプロ方式の大学のあり方を痛烈に批判する先鋭的で戯画的な社会派映画で、群像劇だけど、実質的には中原早苗が目立つようにできている。

■基本的にコミカルな戯画的な演出だけど、芦川いづみが金持ちのボンボンに平手打ちを喰らい暴力的に蹂躙されるサディスティックなシーンが妙にリアルで当時の観客の度肝を抜いた。相手役がまだひょろっとした青年だった頃の波多野憲@劇団民藝で、この一作で大いに売り出したようだ。実際、一番の儲け役といえる。後年、もっとリアルな演技を身につける上手い人だけどね。

■信義に厚い曲がったことが大嫌いな”女国定忠治”がわれらの中原早苗で、例によってヒステリックに叫び通すのだけど、すでにヒステリーおばさんの芸風が固まっているなあ。まだ年齢的にはおばさんじゃないけど、ギャル(!)でもないしね。端的に、発声が悪く、メリハリが乏しいので早口の台詞が聞き取りにくいとうのは困りものだけど、クライマックスは早苗の独壇場だ!

長門裕之は発展家の麻雀屋の娘に骨抜きにされて堕落しかけるけど、すんでのところで演劇青年の執念で卒業記念の舞台を成功させる。このあたり、演劇青年だった今村昌平の大学時代をモチーフにしているのではないか。脚本が盟友の山内久だからね。

■大学改革のために学長に大抜擢される仲谷昇が絶品演技で、実に見事。この後、中平康の映画の主演を任されるのも納得の存在感だ。学長就任演説も見事なものだが、その最後にしれっと学費値上げを忍び込ませるのも見事な技。このために学園は闘争ムードが一気に燃え上がるが、不発に終わり、そのかわり学費の捻出に追われる芦川いづみは情痴の闇に飲まれる。その悲劇がドラマなクライマックスで、急転直下のシリアスな終幕を迎えることになる。

俺たち”雑草”には大学は実社会へのパスポートであれば十分であって、大学の理念とか理想とか真理探究とか知的好奇心とか、そんなお題目を言っている生活の余裕はないんだから、学費値上げはほんの千円でも死活問題なんだ。伊藤孝雄の主張に、だからこそ日本の大学に改革は訪れないことを悟った仲谷昇は自ら大学を去り、一方で芦川いづみをしっかりと抱きとめられなかった伊藤孝雄は中原早苗から激しく糾弾される。

芦川いづみの悲劇的なエピソードで幕を閉じる本作は、しかし日本の大学の主体的な改革がありえないことをしっかり予見し、60年安保のさなかでマスプロ教育の拡大路線の渦中にあった日本の大学の限界とその将来を鋭く突きつけた意欲作なのだった。マジで再評価されるべき先見性に富む異色作だ。

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