女囚さそり 701号怨み節 ★★★☆

女囚さそり 701号怨み節
1973 スコープサイズ 89分
DVD
原作■篠原とおる 脚本■神波史男松田寛夫長谷部安春
撮影■仲沢半次郎 照明■?
美術■北川弘 音楽■鏑木創
監督■長谷部安春

■警察に追われ、ストリップ小屋の照明係の青年(田村正和)に救われたさそり。青年は、公安の拷問により学生運動ドロップアウトした活動家くずれで、革命の夢よもう一度と大企業から現金強奪を試みるが、簡単に逮捕され、母親(初井言栄)の説得で、さそりを裏切ってしまう。青年を愛し始めていたさそりは、死刑判決を受けて収監中の監獄を脱走する・・・

■物語が前半と後半に大きく二分され、前半はさそりと正和の70年代風俗たっぷりのムードアクションで、非常に出来がいい。後半の監獄場面はシリーズおなじみの展開で、時間も短いのであまり練ったエピソードが用意されておらず、正直残念な出来栄え。前半は田村正和が実質主役で、そのまま全編が統一できれば傑作になっていたはずだ。

■さそりと正和の交流はまさに日活ムードアクションの変種といった風情で、白い薔薇やレモンを小道具に使った演出は、東映流ではなく、長谷部安春のバタ臭さが発揮されたものだろう。ラストは、のめのめと生き延びた正和の前に、復讐のためではなく、男に未練を残す自分に決着を付けるために現われるさそりは、イーストウッドの亡霊ガンマンの親戚にも見える。

■とにかく梶芽衣子をクールにかっこよく撮ることについては大成功している映画で、彼女の表情の全てがフォトジェニックに決まっている。考えてみれば、これ梶芽衣子アイドル映画じゃないのか?

■一方の過激派くずれの正和の醜態は情け容赦なく描かれ、さそりはこの男の情けなさを映し出す鏡として出現する。或いは、革命の夢に挫折して、死ぬに死に切れない迷える魂を地獄に送り込む死神とも言えるだろう。取調室で母親の説得に正和が身もだえする場面は演出にも力が入っており名場面だし、映画における正和の代表作といえるだろう。

補足

■ちなみに、さそりシリーズ4作目の本作は、梶芽衣子じしんはやりたくなくて、東映岡田茂口説き落とされて出演を承諾した経緯がある。その条件として監督は長谷部安春でと指名したもの。梶芽衣子は『野良猫ロック セックス・ハンター』の完成度の高さを認識していて、長谷部安春しかないと考えたそうだ。しかも、本作がさそりシリーズの最高傑作だと信じているそう。うん、その気持はわかります。この映画、ほんとに蘇った日活映画って感じだものね。

■ちなみに、脚本の神波史男松田寛夫の名コンビはこの脚本をノリノリで書いたため過激すぎたので、監督が改変することになったらしい。過激すぎたという最初のバージョン読みたいなあ。。。ちなみに、この脚本の改変には監督とは旧知の中西隆三が影武者として参加していたらしいから、やはりかなり変えたようですよ。(ご本人が『シナリオ』誌で告白している)

「それじゃ、とことん集大成をやろうって、かなり激しいもの書いたんです。するとさすがにそれではと。東映がビビったんです。(中略)シナリオは会社が目をむくようなものだったですよ、最初に書いたものは。・・・と思うんだけど(笑)。」
桂千穂編・著『にっぽん脚本家クロニクル』神波史男の項より


© 1998-2024 まり☆こうじ