基本情報
ローレライ
2005/CS
(2005/3/5 TOHOシネマズ高槻/SC8)
原作/福井晴敏 脚本/鈴木 智
撮影/佐光 朗 照明/渡邊孝一
美術/清水 剛 音楽/佐藤直樹
VFXプロデューサー/大屋哲男
VFXスーパーバイザー/佐藤敦紀、田中貴志
特技監督/樋口真嗣 特撮監督/佛田 洋
監督/樋口真嗣
感想(旧HPより転載)
第二次大戦末期、原爆投下を阻止するため南方洋上に出航したイ507潜水艦にはローレライ・システムと呼ばれるドイツ製の新兵器が搭載されていた。人間魚雷回転の搭乗員だった青年は謎の歌声に導かれるようにして、その秘密の核心に遭遇することに。だが、その頃艦内では搭乗員の間に不穏な動きが・・・
樋口真嗣が遂に劇映画の監督に本格的デビューを飾った注目の新作は、日本映画でも数少ない潜水艦を扱った戦争映画で、しかもSF的要素も加わった難物である。しかし、結果的には大方の予想以上に正攻法の戦争アクション映画であり、しかも役者の魅力を引き出すことに成功している。主役の役所広司の行動が、台詞が、単純に痛快でカッコいい。それだけでこの映画の成功は確実なものといえる。
近年大活躍の清水剛の美術が圧巻で、潜水艦セットの質感は見事なものである。スーパー35ではなくアナモフィックレンズを使用したシネスコ撮影も大作感と艦内の熱気を醸成するのに効果的で、必ずしも特に優れた撮影とはいえないが、アクション映画の要諦を踏まえたキャメラワークを見せる。
潜水艦ものでは定石の艦内での主導権争いはお約束どおりで、石黒賢の配役もまずくあまり盛り上がらないのだが、その後のアクション映画としてのアイディアの生かし方が日本の戦争映画には珍しい痛快さを生み出している。
そうしたアクション映画としての枠組みの中に堤真一の「国家としての切腹」という一種のテロが盛り込まれ、おそらく小説ではこの部分が重厚に描きこまれているはずだが、映画ではあくまでスパイスとしての重みしか与えられていない。だが、そういう印象にとどまってしまうのは、おそらくあまりにフジテレビ臭の強い配役によるとことが大きいのだろう。配役の工夫だけでももっと説得力を持つモチーフとなったはずだ。
そうした映画としての魅力に比べて御得意のはずの特撮演出には疑問が多く、特に洋上シーンの完成度は意外なほど低い。水中シーンが巨大なミニチュアのモーションコントロール撮影を生かしたスケール感あふれるカットを生み出しているのに比べ、潜水艦の洋上の挙動は水の質感のコントロールが不十分で、派手なキャメラワークを繰り出すほどに違和感を増幅させてゆく。
また、HD24pで撮影され、デジタル合成処理された艦上での芝居は、明らかに輪郭が甘くなり、色調も変化し、デジタル合成特有の平板な画調となっている。艦内の芝居がリアルな美術セットに支えられた高密度な映像で捉えられていることと対照的に、艦上シーンの立体感の無さは重要な欠点となっている。広島、長崎の被爆シーンなど、イメージショットでしかなく、劇的な必要性も低い場面を削ってでも、実景でロケすべきだろう。
この映画の特撮演出を見れば、樋口特撮のかなりの部分を支えていたのが松本肇であったことがよくわかるだろう。不評の「鉄人28号」が無ければ、この映画のVFXはさらに洗練されていたのではないだろうか。
さらにヲタクの妄想心をくすぐる謎の美少女香椎由宇は演技的にはともかく、ビジュアル的には120点満点で、ひたすら痺れる。「バトル・ロワイヤル」の柴咲コウの登場に匹敵する衝撃度だ。
しかし、樋口真嗣が一般映画に移行してしまうと、専任の特撮クリエイターの座が空位になってしまうのだが、いったい誰がその空席を占めるのだろうか。神谷誠なのか、菊地雄一なのか、あるいは彼らも映画全体のディレクションをもくろんでいるのだろうか。
(補遺)
本作のVFX関係者の某氏(多謝)からいただいた情報によると、洋上シーンは最後までロケ撮影の可能性が模索されたが、予算上の都合でスタジオ撮影に変更されたのだそうです。先日刊行された本作の画コンテ集の樋口真嗣の書き込みにも実景のロケ撮影の指定が見られるように、誰しも目指すところは同じだが、大人の事情が容易に許さないということだったらしい。確かに役所広司や妻夫木聡、柳葉敏郎らの売れっ子を海上ロケに拘束するのは容易ではないでしょう。
また、ローレライの水中シーンの90%程度はCGによるもので、巨大なミニチュアを撮影したショットはほとんど使用されていないそうです。驚きです。個人的にはテニアン近海での陽光がまぶしい南方の海を舞台にした明るい海中戦というシチュエーションがお気に入りで、VFXの表現的にもひとつの試練だったと思いますが、映画的なカタルシスに大きく貢献していると思います。
参考
maricozy.hatenablog.jp
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