のぼうの城 ★★★☆

のぼうの城
2012 スコープサイズ 145分
ユナイテッドシネマ大津(SC4)
原作■和田竜 脚本■和田竜
撮影■清久素延、江原祥二 照明■杉本崇
美術監督■磯田典宏 美術■近藤成之 音楽■上野耕路
特撮監督■尾上克郎 VFXスーパーバイザー■佐藤敦紀、ツジノミナミ
監督■犬童一心樋口真嗣

■諸般の事情で公開が1年延期になった悲運な時代劇大作だが、期待通り(期待以上?)の大ヒットでまずはめでたい。いまどきこんな戦国時代劇大作が商売になることだけでもありがたい。『BALLAD 名もなき恋の歌』(よくこんな映画作ったなあ)『隠し砦の三悪人(リメイク版)』といった失敗作は本作のための習作であったと考えればよろしい。

石田三成軍と忍城の精鋭チームの戦術合戦を描く時代劇なのだが、ちゃんと東宝時代劇になっている。しかも黒澤時代劇というよりも稲垣浩の大味な特撮時代劇の味が継承されている。もちろん良い意味でだ。『大阪城物語』の特撮スペクタクルと詩情、『風林火山』の戦術サスペンスを合体させたのが本作であるとも言える。時代劇大作といえば三池崇史の『十三人の刺客』も評価が高かったわけだが、本作のほうが確実に楽しいし、ずっと東宝映画らしい。

■本作は意外にも野村萬斎の扱いは控えめで、忍城のチームがあくまで主役となっている。当初はまるでコメディリリーフのような配置で登場する。それでも要所要所で萬斎ならではの奇抜なパフォーマンスで堂々主役の貫禄を発揮してゆくからうまい計算である。このあたりの微妙なバランス感覚は共同監督のたまものだろうか。このキャラクターはたまたま忍城のリーダーに祭り上げられただけの男で、本来そんな器ではないところから生じるドラマの面白さの追求は十分ではなく、ここをもっと掘ればもっと大人向けの時代劇になったはずだ。榮倉奈々とのラブロマンスは正直蛇足だが、過剰にメロメロしてないので、ひと安心。一方、天才子役たる芦田愛菜が涙腺を鋭く一突きする的確な演技で、天才ぶりをアピールする。のぼうが民衆の前で泣き崩れる場面ですが、ここはちょっとした名シーンで、上手い芝居場を作ったものだ。

■一方、石田三成上地雄輔が演じるのだが、これは萬斎に対抗するには格不足。『陰陽師』の時には真田広之が対抗したのだから、もっと贅沢な配役とすべき。おまけに、実戦を知らず思慮の浅い無謀な若い武将だったはずが、妙に良い奴扱いになっていく変遷に説得力がなく、ドラマ的には葛藤が不十分。参謀役の山田孝之は設け役で、ひげ面の顔貌だけで無二の説得力がある。この役者にはもっと古典演劇の訓練を積ませるべきだ。発声や台詞回しの古典的な技法を叩き込めば、もっと化けるのではないか。

■技術スタッフの大活躍は各種の賞を総なめにする可能性大で、スケールの大きい美術装置や東映京都から参加の照明効果も重厚で、時代劇らしい引きの画が堂々と決まる。城内の場面はかなり照明もリアルに絞ってあるので、これは是非映画館で観るべき。ソフト化されると、照明効果は絶対にニュアンスが変わってしまうからだ。時代劇映画らしい陰影表現はスクリーンならではのものだ。

■特撮シーンは特撮研究所のスタッフが尾上克郎特撮監督の指揮で大規模な水攻めシーンのスペクタクルを担当し、当然のことながら矢島信男の『夜叉ヶ池』へのオマージュカットもあります。あ、『空海』てのもあったか。とにかく豪快なミニチュアワークと細かいデジタル合成のあわせ技は最強の方法論で、映像の説得力が違う。特撮美術には三池敏夫高橋勲も参加しているぞ。とにかく情報量が多いので、何度も観たないと何が起こっているのか把握し切れないくらいだ。ただ、ちょっと気になったのは多数登場する忍城の情景カットがどうも平板に感じられるのは何故だろうか。特に昼間のシーンが気になったけど、これはフィルムの焼き方かなにかの事情だろうか。

■ちなみにこのお話、舞台化できるのではないか。水攻めの場面はスクリーンプロセスを使って、あとは双方の芝居でグイグイ見せる。『十三人の刺客』だって舞台化できたので、たぶんやるんだろうなあ。


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