Vol.1
■最初はふつうのロボットアニメとしてはじめて、途中から主人公たちの出生の秘密が明かされ、徐々に正義を相対化する展開かとおもいきや、いきなりパイロット版からしれっと打ち出すので驚いた。
■150年前にビアル星から来た神(ジン)一族の末裔が、日本各地から駿河湾に集結して、ロボットは合体するわ、基地まで合体して巨大基地になるわ、敵ガイゾックとの戦闘の余波で、地元の漁港は壊滅し、避難民を乗せた船は沈没し、主人公の地元のライバルや友人たちは爆撃や大波で押し潰される。お前たちのせいで侵略者がやってきたのだから、すぐに地球から立ち去れ!という主張が最初の方から出てくるから異様。地球を守る正義の組織ではなく、市井の民として暮らす親族一同がガイゾックと戦うのも、ユニーク。
■未来世界や異世界ではなく、当時の日本の地方都市を舞台として、「日本人」や「日本社会」の物語として描かれる、非情にリアルでシビアなお話。第5話「海が怒りに染まる時」で金田伊功が作画に参加すると、一目瞭然でタッチが劇画調で凄くなるのも、分かりやすいなあ。これ、ぜひ実写でリメイクするといいと思うなあ。テーマ性が強靭だし、いまも古びていない気がする。
■第6話では、相変わらず漁港のおじさんたちから、ここに来るなとか日本から出ていけと疎外される神ファミリーだが、遠洋漁業から頼もしい長男が帰ってくる。日本人にはまだ俺達ファミリーの戦いが正しいことが理解できないのだ。主人公勝平のライバル、地元のヤンキーで、神ファミリーを憎んで追い続ける香月くんがそのテーマを背負っているらしい。果たして、和解と相互理解の日は来るのだろうか?
Vol.2
■11話「決死の爆破作戦」でついにガイゾックが姿を現し、野蛮なキラーザ・ブッチャーはしょせん駒に過ぎないことが示されます。ブッチャーの描写は終始コミカルでおふざけモード全開ですが、ガイゾックの親分はひたすらシリアスで、理知的です。その真の狙いは?
■この巻では、なんといっても12話「誕生日の死闘」でしょうね。恵子が分離して諏訪湖に潜むビアルIII世に帰ろうとするが、母親に一人前の戦士になるまで返ってくるなと厳しく拒絶される話。故郷の友だちには「人殺し」と責められるし、立つ瀬がない恵子だが、さいごには友だちも理解してくれて、頑張って!と送り出してくれるから、泣かせる。母は夜なべして恵子の裂けた振り袖を繕ってやるのだった。これまた泣ける。これまで迫害され続けてきた一族に理解者が徐々に現れるが、きっと今後悲惨な展開が待っているに違いない。。。
■すでに副総理を救助したから、政府からは非公式に感謝されていたりするのだが、ガイゾックの襲撃は日本各地に飛び火しており、日本各地で難民が発生し、散発的に移動を開始しているようだ。このあたり、『日本沈没』(特にTV版)を思わせるなあ。
Vol.3
■第13話「果てしなき戦いの道」は傑作回で、流浪の難民として下北半島まで流れてきた香月たちに、ガイゾックのメカブーストが迫る。山の向こうに戦闘が見え、来るな来るな頼むからこっちに来るなよと祈るもの、やっぱり戦闘に巻き込まれる嫌なサスペンスの醸成がうまい。生き別れた母や妹を探すうち、ザンボットの戦闘に巻き込まれてトラウマを持つ少女を保護する香月。拗ねて戦闘をネグレクトする勝平に、お前はなぜ戦わないんだ!?と香月が迫る場面から、タイトルソングにつなぐあたりも、定番ながら泣かせる。香月の神ファミリーに対する気持ちの変化がかなり丁寧に描かれている。
■第16話からが噂の人間爆弾篇で、情け容赦なく、非戦闘民が爆死する。キラーザ・ブッチャーは、戦闘ロボを製造するより人間爆弾は安上がりであることを知ったからだ。第17話「星が輝く時」では難民キャンプかと思ったら、偽装したガイゾックの人間爆弾製造工場で、香月の親友たちも次々と改造されて、爆散してゆく。最終場面の、人間爆弾にされた悪魔の印を持つ難民たちが、どこともなく列をなして去ってゆく絶望感と、手術された浜本(香月のツレ)がやっぱり死にたくない!お母さん!と叫びながら、突然爆発してしまう、容赦なく残酷な展開で唖然とする。
■第18話「アキと勝平」では勝平が幼馴染のアキとやっと再会して、キングビアルに収容するが、背中に人間爆弾の印が刻印されていた。というお話で、引き続き情け容赦ない悪が描かれる。ラストで、アキの爆死した居室ブロックをキングビアルから釣り上げて、水葬する場面の寂寥感。アキが前半であっけなく死んでしまうのもショックだけど、ラストの妙なリアリティが凄い。
■人間爆弾て、なんだか見覚え、聞き覚えがあるなあと思ったら、イスラエルのポケベル爆弾そのものじゃないか。リアルすぎて、言葉を失う。
Vol.4
日本人は在日米軍兵士にありがとうと言えるか?
■ついに全部観終わったのだが、なかなか一筋縄ではいかない作品で、すんなりと飲み込めない要素が多い。鈍器で後頭部を殴打するような暴力的な作品であることは間違いないが、同意できるか?といえば、微妙だ。
■お話の構図が、どこまで意図しているかは不明だけど、明らかに在日米軍と日本人の関係を下敷きにしていて、もしソ連が日本に侵攻して、日米安保条約に基づいて在日米軍が出動して、若い兵士の命が次々と喪われてゆくとき、平時には日本から出ていけとか、お前たちのせいで戦争に巻き込まれるとか言っていた日本人は彼ら米兵たちに虚心坦懐にありがとうと言えるのか?と問うている。なんでそんな胡乱な問いを立てたのかはしらんけど、実際そんなお話に見える。
■150年前に宇宙から日本にやってきて巨大な戦闘兵器を埋蔵していた神ファミリーは在日米軍だけど、日本人からは、彼らがいて巨大ロボや巨大戦闘母艦を持つせいで日本が攻撃されるから、出て行けと責められる。俺達は、正義のために、そしておまえたちを守るために命をかけて戦っているのに、なんで感謝すらされないのか。そのことは、キングザ・ブッチャーとガイゾック(人工知能)からも詰問される。
■監督は戦争経験者で、日本各地が空襲されて、国民が逃げ回り、あっけなく死んでゆく姿をそのまま再現している。そこが本作の重要な要素で、リアルな恐怖を伝えている。日本各地の実在の都市を転々する構成もそのことを増幅する。正直、そのまま日本国内でケリを付けたほうが良かったと思う。終盤、戦闘が宇宙に飛び出してからは、完全にガンダムなので、興をそがれる。次々と死んでゆく神ファミリーや一般市民も、最初は衝撃的だったけど、毎回同じように死んで、勝平が泣くという展開の繰り返しで、正直飽きる。効果が続かない。終盤の戦闘シーンの連鎖も、これまた戦闘のインフレが不感症をもたらすので、成功しているかどうか?
勝平と香月
■もちろん主役は勝平だけど、あまりドラマを背負ってはいない。周囲の幼馴染や親戚たちが次々と命を落としてゆく戦争状態の中で、ときに戦意喪失するけど、基本的に精一杯戦い抜く熱血漢だからだ。どうしてもドラマとしては主人公としての制約や限度があり、その足りない部分、人間臭さをライバルの香月が背負っていて、むしろこちらが主役にも見える。難民生活を経て、神ファミリーへの反発から相互理解、そして共闘へ至る、心的変化を体現しているからだ。ドラマのなかで、一番大きく変化し、成長したのは香月なのだ。
■香月は日本人代表として、ガイゾックの非人間性(当たり前だけど、特に人間爆弾作戦)を目の当たりに体験したうえで、神ファミリーの戦いの一番の理解者となる。上記の見立てで言えば、在日米軍の(日本国内で)報われない戦闘を見て目覚めた日本人(及び自衛隊)が、自らの意志で戦うことを決意するという構図になろうか。建前上戦力を有しない日本国だから、人民各位の肉弾攻撃しかないのだけど!
■しかも、第20話「決戦前夜」では、勝平たちパイロットは睡眠学習による深層心理の操作で、恐怖心を感じないように改造されているという衝撃の事実が明かされる。戦争の非人間性は、正義の側にも存在するのだった。当たり前だけど。まあ、富野由悠季という人は、どこまで捻くれているのでしょうか。