隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS ★★☆

隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS
2008 ヴィスタサイズ 118分
東宝公楽
脚色■中島かずき
撮影■江原祥二 照明■吉角荘介
美術■清水剛 音楽■佐藤直樹
セカンドユニット監督■尾上克郎 VFXスーパーバイザー■佐藤敦紀
VFXプロデューサー■大屋哲男 VFXデザイナー■丹治匠
監督■樋口真嗣

■ご存知黒澤明の”名作”(個人的には不出来と思うが)のリメイクならぬ、リボーンを狙った樋口真嗣の最新作で、原作を比較的忠実になぞった前半はそれなりに面白く見せるのだが、オリジナルにシフトしてゆく後半部分が異様につまらない。この脚本にOKを出せるのは、松本潤長澤まさみのラブストーリーさえ仕掛けてあれば、女子中高生は満足するに違いないという、映画になんの拘りも持たない自堕落な製作陣だけであろう。どう考えても、後半部分はいわゆる”左足で書いたような”脚本である。松本潤が侍に父親を見殺しにされたことを明かして、急に長澤まさみが惹かれてゆく場面など、噴飯物だ。
■しかも、今回は樋口真嗣の勘違い演出も相当に酷く、観ていて腹の立つ部分が多い。なかでも一番悪質なのは、見せ場のチャンバラをハリウッドのアクション映画調の細かいカッティングに分割し、しかも個々のカットをデジタル処理で揺らしていることだ。振り回す刀の軌跡をデジタル処理で表現するVFX演出も、非常に醜い。同様の演出は野村萬斎の「鞍馬天狗」でも部分的に試みられていたが、あれはヒーロー鞍馬天狗のファンタジックな演出として意味があったわけで、骨太で力技の大アクションを見せるべきこの映画で、あんなことをやってしまうと、ライトセーバーの物まねに見えてしまうのだ。特撮カットを必要以上にデジタルエフェクトで揺らす傾向は平成ガメラ時代から顕著で、神経質なものを感じていたが、今回は明らかに強迫観念を感じさせる。結局のところ、時代劇のチャンバラに対する誠意と戦略性が全く見えないのだ。中盤の、前作で三船敏郎の豪胆な体技の見せ場であった馬上アクションも、ここでは阿部寛だけでなく長澤まさみも交えてスケールアップされており、劇的な見せ場となっているが、デジタル合成が多用されてアニメ的なアクション構成となっており、アクション映画の醍醐味からは程遠い。CGやデジタル合成は使い方さえ巧ければ、「マトリックス」や「少林サッカー」のようなアクション映画を生み出すわけだが、完全に失敗している。
■近年の時代劇では、平山秀幸ですら「魔界転生」で大失敗を経験し、「阿修羅城の瞳」も沈没、「赤影」のリメイクも失敗、「どろろ」もひどかったなあと死屍累々、辛うじて山田洋次の「たそがれ清兵衛」が真田広之田中泯の死闘にチャンバラ魂を込めることに成功していたが、そうした時代劇状況の困難さに対する洞察が全く欠けている。(そういえば滝田洋二郎の「陰陽師」が時代劇と特撮の幸福な融合を実現していたが、これもアクション映画及び時代劇としての面目を真田広之が背負っていたことを思い出すべきだ。)
■脚本の中島かずきは、本業の舞台ではさすがにもっと冴えを発揮しているのだろうが、今回は主人公に山師や木こりといった、被差別民としての山の民を据えているが、中島貞夫でもあるもあるまいし、結局はだからどうしたというレベルのお話で、積極的な意味は見えない。本当にそうした設定を生かした作劇を目指すなら、東映で映画化すべきなのだ。大東宝の時代劇であれば、もっと異なったアプローチが必要であろう。それにしても、後半の安いラブロマンスの作劇の工夫の無さは呆気にとられるほどで、ケータイ小説レベルだ。前作の有名な台詞、”裏切りご免”の使い方にも呆れた。せっかく京都から時代劇のベテランキャメラマン江原祥二を連れていったのに、脚本がこれではどうしようもない。
■今回はなぜか特撮監督のクレジットは無く、モーターライズ佐藤敦紀が中心となって制作されたようだ。特撮の見せ場としては冒頭の秋月城の炎上、崩壊が短いながらもボリュームがあり、凝っているのだが、クライマックスの山名の隠し砦内のアクションが冴えず、エレベータ(?)内のアクションなども、斬新さは無い。全体にデジタル合成もおとなしめで、ハリウッド映画の派手なマッチムーブなどに比べると、キャメラワークが大人しいため昔ながらの生合成っぽく見える。情景ショットはそれでいいのだが、アクションシーンについて、デジタル加工で洗練するならまだしも、台無しにするのは絶対に許せない。この責任はひとえに樋口真嗣が負わなければならない。
■配役をみると、本作が超大作ではなく、中規模作品であることがよくわかるのだが、松本潤の貧相な顎に猿のようなひげを生やしたのは悪い冗談だし、敵役が椎名桔平というのも弱すぎる。椎名桔平は演技的には決して悪い俳優ではないが、クライマックスで松本潤と対峙すると、顎の骨格の貧弱な俳優は映画に向かないという残酷な現実が重くのしかかる。長澤まさみは前半の凛冽な姫君の部分は魅力的なのだが、後半にメロメロしてくると、なんだツンデレかよとがっかりする。人物造形の薄っぺらさと演出の拙さが露呈するのだ。そういえば志村喬が昔演じた役を引き受けた國村隼長澤まさみが砦のなかで突っ立ったまま会話を交わす場面の演出のひどさには頭を抱えた。
東宝公楽で何年かぶりで映画を観たわけだが、シネコンと比べると明らかにスクリーンが暗い。しかもこれは、上映中も劇場内の照明が全部消えないためとわかった。夜のシーンなど、かなり見辛い。さらに驚いたのは音響効果の拙さで、台詞と音楽が見事に分離されているのだ。台詞もかなり活舌が悪い感じに聞こえるが、音楽部分は完全に背景に沈んでしまって、単純にボリュームが小さいように聞こえる。これには驚いた。シネコンの設備の優秀さを改めて感じさせられた。

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