ありきたりの学園ドラマじゃないよ!NHKドラマ10『宙わたる教室』完結

2024 NHKドラマ10『宙わたる教室』(全10話) ★★★☆
原作:伊与原新 脚本:澤井香織 音楽: jizue 演出: 吉川久岳、一色隆司、山下和徳

■またまたNHKで意欲的なドラマが始まりました。いわゆる学園モノでしょ?夜間高校を舞台の、よくあるやるでしょ?と敬遠していたけど、観てみると、これは『Shrink』とも通じる癒やしのドラマですね。『Shrink』ではそのカリスマが中村倫也のところ、本作では窪田正孝です。しかし、ちょっと痩せ過ぎではないかい?おじさんは心配になるよ。ちゃんと食べてますか?

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■第1話「夜八時の青空教室」は、まだ普通の学園ドラマぽいですよ。でも「ディスレクシア」をテーマに設定するあたりが、さすがにNHKで、民放ではできません。アーノルド・シュワルツェネッガートム・クルーズも該当するらしい識字障害。まあ、このところNHKドラマ班は、こうした未開拓のテーマ設定や社会的マイノリティを取り上げた企画でないと会議を通らないことになっているようです。なかなか民放では考えられないですね。

■第2話「雲と火山のレシピ」もできが良くて、「ジャパゆきさん」の娘をガウ(マリア・テレサ・ガウ)が演じる。あのウルトラマンガイア』のジョジーですよ!すっかり貫禄ですね。マイノリティとしての混血児(さいきんはミックスというらしい)の生きづらさを描く。まあ、このところNHKのドラマは人権啓発ドラマが基本線になっていて、社会的マイノリティを描くことに全精力を傾注しているすごい状態。脚本の澤井香織という人は、やはりかなり上手い人のようだ。

■第3話「オポチュニティの轍」は、映画化でも有名な小説『火星の人』が下敷きになっていて、3ヶ月の孤独なミッションの予定を、実に15年も続けた火星探検車オポチュニティの栄光とその最期を紹介し、その辿った火星上の轍の1枚の写真を土台にしながら、消えたいと願う自傷癖の少女のリスカの躊躇い疵のあととを、重ね合わせるという天才的な見立てが圧倒的なエピソードで舌を巻きました。これは凄い。

■演出の吉川久岳というひと、良いね。と思ったら、あの傑作『むこう岸』の人ですね。脚本の澤井香織も同様。第3話のこの見事な見立て技は、クリーンヒットでしょう。まあ、テレビドラマ各賞受賞は間違いないところですよ。

■第4話も良好でした。さすがにレベルが高いです。

■ついにイッセー尾形が主演の回で、当然のように一人芝居の見せ場がクライマックス。観客も演出家も現場のスタッフも待ってました!というところで、期待通りに堪能させます。町工場の社長は、なぜあんなに熱心に質問を重ねるのか?その理由が、高度成長期の労働環境を踏まえて切実に語られます。基本的にお涙頂戴ドラマではないけれど、自然な感動がありますよね。

■隕石の衝突は大規模な破壊ももたらすが、新しい別の環境を生み出す。世代間の衝突に重ねて描く見立て技が、今回も秀逸で、全てにおいてレベルが高い。でも、ほんとうのドラマは次回から始まるのでは?

■第5話「真夏の夜のアストロノミー」は、科学部の関東高校生科学研究コンクールへの登録拒否をめぐって、窪田正孝がブチ切れるというお話。火星のクレーター再現実験に本格的に取り組み始める。

■第6話「コンピューター室の火星」は、昼間部のコンピュータ部の生徒(南出凌嘉)が、夜間部の科学部にリクルートされる。火星の低重力をいかにして再現するか?そこにむけて、シミュレーションが進み、はじめはバカにしていた南出凌嘉も、巻き込まれてゆく。同時に彼の抱える家庭問題が浮き彫りにされる。夜間部の小林虎之介が彼の家に乗り込んで、家庭内暴力を振るう弟を静止すると、ずっと弟を疎ましく思って避けてきた南出くんも、少し気持ちに余裕が生まれる。

■今回もいい塩梅ですね。クレーターの衝突実験が急速に進展して、どんどんロジックが専門的になります。一方で、南出くんの家庭事情、というか弟の抱える問題は、あっさりと片付けられてしまったけど、もう少しフォローが必要な気はするよね。

#7以降と総括

■終盤の展開はある意味定石通りになっていき、科学部の中で小林虎之介のエピソードを中心としてチーム崩壊の危機があり、窪田正孝は科学部で目指そうとした仮説の失敗を悔いるが、恩師の長谷川初範に、実験に失敗は付き物じゃないか、失敗してからが研究の本領じゃないかと諭される。本作では長谷川初範がかなり大きな役で登場し、いい味を見せる。この配役は、きっと『ウルトラマン80』の矢的先生が意識されているだろう。本人もきっとそのつもりで演じたに違いないよね。いい役だったし、滋味のある演技だった。そういえば長谷川初範ガメラには出てたけど、ゴジラには出てないのね、なぜか。東宝特撮で科学者やればぴったりなのに。

■最終的には学会で火星再現実験を発表して大きな反響を呼び、JAXAから火星探査実験の改良に知恵を貸してくれとお声がかかることに。後半で危惧したのは、窪田正孝の上司だった教授の高島礼子の描き方で、かなりステロタイプな悪役として描かれた点だった。序盤の科学部の面々の繊細なエピソードと丁寧な演出に比べて、かなりリアリティを欠いていると感じた。日本の科学研究分野の悪弊を象徴させた人物だけど、たぶん原作ではもう少しリアル寄りではなかろうか。その部分を丁寧に描こうとすると当然尺を食うので、割り切って悪役にしてしまったのだろうけど、日本の科学研究畑の闇は、深堀りしがいのあるネタなので、もったいないなあとも感じた。それでも、最終回の学会発表シーンで、それなりに納得感を醸し出したのは、さすがですね。

■日本の科学研究、基礎研究畑のリアルな危機的状況や、現場の教員や研究者の心の声は、渡辺あやが2021年に『今ここにある危機とぼくの好感度について』で、取材に基づいて、ヴィヴィッドかつ細密に描きました。これもNHKです。偉業だと思います。さらになぜか東映も『科捜研の女2022』でかなり突っ込んだ追求をしています。このシリーズは、もっとその筋で注目されるべきだと思いましたけどね。
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■科学部のメンバーたちの抱えた負の部分(動機)を丁寧にナイーブに描いた前半から、後半はある意味ハリウッド映画の実話ものにも似たタッチで、きれいな定石に落とし込んで、カタルシスに導く、よくできた娯楽作だったし、科学する心を誠実に描きこんだのは、NHKドラマのいいところだと思います。いまやNHKしかできない芸当。メインスタッフも『むこう岸』の面々だから期待通りの仕事ぶりでした。

窪田正孝は『ケータイ捜査官7』の頃から見てるけど、ちょっと痩せ過ぎでは?おじさん心配になるよ。まあ、奥さんいるから大丈夫と思うけど。そして、フィリピン人とのハーフの主婦を演じたガウさん、大活躍。こちらもイメージ的には特撮人脈。NHKドラマに毎シーズン出ている気がするイッセー尾形も、文句なしに良いですよ。人間国宝にむけてまっしぐらですね。

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