戯曲レビュー:日本学術会議任命拒否事件を描く、永井愛の『ザ・空気 ver.3 そして彼は去った 』

■安倍政権を路線を継承した菅政権下で起こった日本学術会議任命拒否事件をモチーフにした、ザ・空気シリーズ最終作。コロナ禍の2021年に初演されたもので、コロナ禍の渦中の雰囲気もそのまま盛り込まれるリアリタイムな作風で、作劇的な深化や装飾よりも、今ここにあるリアルをシンプルな筋立てで、撮って出しで伝えるアクチュアルドラマ(by部長刑事)。いや、素朴に凄いと思う。

■舞台は1作目と同様のテレビ局の舞台裏に戻って、「報道9」の今夜の番組をどうするという話になっている。政治ジャーナリスㇳの植松は政権に日和って、完全に体制べったりだけど、記者時代の後輩だった桜木(このシリーズのみえない中心、ジャーナリズムの失われた良心)の最期の思いにうたれて、今夜の「報道9」の特集「新政権の四ヶ月を振り返る」で、現政権をふっとばす、学術アカデミー任命拒否事件に関する衝撃的なスクープを提示することを決意する。ところが番組の開始直前、過労気味のADのミスで思わぬアクシデントが発生し。。。

■このシリーズは全作読んだけど、最終作の本作は、ある意味で一番いいかもしれない。まっさらな状態から戯曲を読んで、するすると頭に入るし、植松を演じる佐藤B作(!)の演技までもなんとなく脳内に展開される。ドラマとしての深みや綾はないけれど、しっかりとカタルシスはあるし、戦後の占領時代に日本新聞協会が出した「編集権声明」の罪深さも、改めて再認識させられる。ハリウッド映画なら、ファイナルカットの権限は製作者=Pが持つけど、日本の報道では、ものが報道なのに、他の先進国と異なりハリウッド同様に経営陣が持つという事実は、素朴に知りませんでした。ネタがネタだけに、再演はないだろうけど、舞台録画観たいなあ。
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