実はジェットコースターな少女漫画だった『52ヘルツのクジラたち』

基本情報

52ヘルツのクジラたち ★★★
2024 ヴィスタサイズ 135分 @Tjoy京都
原作:町田そのこ 脚本:龍居由佳里 脚本協力:渡辺直樹 撮影:相馬大輔 照明:佐藤浩太 美術:太田仁 音楽:小林洋平 VFXスーパーバイザー:立石勝 監督:成島出

感想

■虐待されたこどもを保護した貴瑚(杉咲花)はネグレクトなシングルマザー(西野七瀬)から引き取ることを決意するが、その決断の背後には自分自身が経験した苦い経験があった。。。

■小説の映画化とは知っていたけど、ほぼ予備知識無しで観たところ、意外にもジェットコースター映画だったので驚いた。杉咲花がなかば自殺を図る場面など、意図的にステロタイプな演出で、この映画が少女漫画であることを隠そうとしない。例えば『ある男』のように、もう少しアート系の繊細な映画かと思っていたが、演出はメリハリ強めのタッチで、演技のテンションがおかしいことになっていて、まるで東映ヤクザ映画なみに急に感情が激高したり、乱闘が始まったりで、賑やかなこと。そのつもりで観ないと、ちょっと困惑するよ。

■とにかく杉咲花の演技が観たくて観に行った映画なので、その点では結構満足だし、泣いたり、笑ったり、切◯したり、あるいみ杉咲花の七変化を楽しめる。とはいえ、基本的に泣いてばかりですけどね。明らかにメロドラマとして作られていて、とにかくみんなよく泣く。何回泣いていただろうか。たぶん10分に1回くらい誰かが泣いていた。もちろん、褒めてませんよ。

杉咲花が良いのはわかっているけど、頑張ったのが完全に憎まれ役の西野七瀬で、フジの『大奥』ではどうも煮えきらない準主役を控えめに演じているけど、この映画での振り切った演技はちょっと凄い。もちろん『シン・仮面ライダー』ではハチオーグだったし、待機中の次作は『帰ってきたあぶない刑事』なので、どうもやる気満々らしい。

■一方で男優陣はどうも微妙で、そもそも志尊淳ってあまり知らない。おまけに何の意図か、ひろゆきそっくりな扮装で出てくるので、最初から最後までひたすら胡散臭い。そもそも、杉咲花との出会いの場面あたりの胡散臭さは見た目だけでなくその言動にもあり、てっきりどこかのカルト宗教の人かと思ったよ。そんな話なのか?と身構えましたよ。違うけど。

杉咲花が社長の御曹司に見初められるあたりは、もう完全に少女漫画全開で、その後の展開も定石通りだし、一体何の映画を観てるのか頭がクラクラしてくる。それでも最終的に倍賞美津子が登場するだけで映画が引き締まり、杉咲花が地域コミュニティに包摂される感じを一発で納得させてしまうのは、ご都合主義とはいえさすがに凄い。配役一発勝負だけどね。そうそう、途中で登場する路地に棲むおばさんの池谷のぶえも良くて、演劇界では実力派のベテラン女優。ちゃんといい味を出していた。

■撮影にはREDのシネマカメラが使用されたが、どうもルックがデジタル臭くて仕上げがいまいちだと感じる。特に発色が微妙で、肌色の発色が悪い。昔の出始めのシネマカメラ撮影の頃は、スクリーンで観ると肌色が汚くて閉口したものだが、本作もちょっとそんな感じ。現在と過去で色調を変えているのでそのせいもあるけど、それにしても場面によって肌色が不自然に黄色いのはどうなのか?最近はテレビドラマでもシネマカメラを使用していて、映像のルックがかなりフィルムタッチで肉厚なタッチになっているのに、逆に本作ではデジタルタッチなのは、違和感を覚えてしまう。GAGA製作による予算的な制約なのか、東映ラボの技術的な問題なのか。いまや名キャメラマンの近藤龍人はフィルムでもデジタルでも東映のラボでポスプロを行っているようだし、技術は悪くないと思うのだが。

■ちなみに、ちゃんとクジラも登場するので、クジラ映画ファンにはオススメ。


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