苦役列車
2012 ヴィスタサイズ 110分
Tジョイ京都(SC8)
原作■西村賢太 脚本■いまおかしんじ
撮影■池内義浩 照明■原由巳
美術■安宅紀史 音楽■SHINCO
監督■山下敦弘
■芥川賞受賞小説の映画化だが、80年代に中卒で人足仕事で食いつなぐ貧しく卑しい若者の姿を自虐的に描く、風変わりな映画。こんなに下品で不潔な男が主人公の映画をこの時代に製作するなど、東映以外に考えられない。その意味では非常に東映らしい好企画とは言えるだろう。世が70年代であったなら、東映映画の観客層にぴったりマッチしたごく自然な番線だったに違いない。
■主演の森山未來は勇気ある熱演で、これは感心した。そもそもこの主人公の言動自体は、私小説というわりには、リアリティから少し浮き上がっており、そこが微妙な面白さの源泉になっている。古臭い文語口調が何故か江戸落語風になってしまうあたりの洒脱な感じはユニークで面白い。そういえば、これ寅さんに似てないか。
■しかし、今回の脚本は妙に物分りがよくて、映画としての引っかかりが無く、作劇に綾も乏しい。山下敦弘の映画としてもあまりできのいい部類ではない。雨の夜の森山未來と前田敦子の絡みも、何故か長廻しのコクが感じられないし、マキタスポーツ演じる高橋さんのキャラクターの配置の仕方も単純すぎる。まあ、スナックでカラオケを奪って歌いだす場面は良かったんだけどね。希望の持てない単純労働の日々の描写には青春映画らしい苦渋が滲んで悪くないのだが、青春映画を意識しすぎて不発に終わったのではないか。