感想
■お馴染みの忠臣蔵だけど、瀕死の吉良上野介が替え玉(ムロツヨシ)にすり替わっていた?しかも、大石内蔵助(永山瑛太)と肝胆相照らす旧知の仲だったとしたら?
■という奇抜な着想によるコメディ時代劇で、意外にもかなり上出来な風刺劇。お馴染みの土橋章宏が書いた小説の映画化だけど、今回は松竹ではなく東映時代劇であるところが異色。といっても、ロケ地も同じだし、ロケセットも同じなので、ほとんど違いはない。見分けがつかない。残念ながらね。美術は東映の松宮敏之だけど、明らかに低予算で、意匠を凝らした大きなセットは組めない。例えば大奥ものなどのほうが、豪華なセットを組んでいた。それでも見栄えが貧乏くさくならないのは、お馴染みの寺院でのロケ撮影の賜物。
■もともとの発想は傑作『デーヴ』だと思うけど、忠臣蔵に移植したのは慧眼だし、武家社会だけでなく現代社会への風刺になっているところは非常に偉いところ。吉良の偽物と大石の友情で泣かせるし、殿中で刃傷事件を起こした吉良家も浅野家も幕府の面目をつぶしかねない厄介者だからぜんぶまとめてなかったものにしようと企む徳川幕府に反抗してゆく筋立ても、実に東映らしくて良い。コメディ時代劇だけど、意外と正統派時代劇なのだ。そのあたりは土橋章宏がぜんぶ飲み込んで、自家薬籠中のものとしているから、頼もしい限りだ。
■ムロツヨシはコメディ演技が注目されるけど、『呪怨 白い老女』などでもわかるとおり、シリアスに演じると非常に底知れない気色悪い人間像を演じることができる変な人。一方、大石を演じるのは、みんな大好き永山瑛太で、身分の低い武士ゆえに他家に仕官も叶わぬ四十七士の再就職かなえるために仇討ちの成功を祈念する人情家で、弱いものの味方。吉良家の家老の齋藤宮内が林遣都で、吉良との間の男色関係を匂わせるのも、さすが東映。ムロツヨシとの間のドツキ漫才風味が単純に楽しいけど、いまどき頭をどつくのはテレビでは無理なんだろうね?(吉本新喜劇でやってるか)
■シーンつなぎの編集が非常に切れが良くて、若干噛み気味に場面転換するので、非常にテンポが良い。編集は瀧田隆一という人で、あの『見えない目撃者』も編集しているから、こりゃ本物だね。一方で、VFXはマット画を多用していて、低予算なのにやたらとパノラマ的な大きな絵を見せようとする。富士山も江戸城も赤穂城も赤穂の塩田の情景も。しかもあまりリアル路線ではなくて、いかにも絵に描きましたというタッチ。コメディなので敢えての演出意図だろう。しかもマット画は有働武史だよ。
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■最後には一応お約束どおりチャンバラもあるけど、あまり新味はないし、上手くもないのは、コメディとしての本来の狙いを妨げないバランスだろう。でもなぜか岡本喜八の『侍』のあの場面が引用されたりして、油断がならない。
補足
■原作小説をぱらぱらめくってみて驚くのは、映画とタッチが全く異なること。原作者が自作を映画用に脚色しているけど、ほとんど全面的に書き直しくらいのアダプテーションになっている。土橋章宏が映画企画に求められるPや監督の注文を大幅に盛り込んで、コメディとして再構成して脚色したようだ。それはそれで凄く柔軟な対応力ですね。素直に感心しました。
参考
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永山瑛太の役柄のチョイスには哲学があって凄いと思う。『エルピス』にも◯◯の役で出てたからね!
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この映画のムロツヨシは凄かったよね。騙されたと思って観てみて!夢に見るから。
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