孤高のメス ★★★☆

孤高のメス
2010 ヴィスタサイズ 126分
DVD
原作■大鐘稔彦 脚本■加藤正人
撮影■藤澤順一 照明■上田なりゆき
美術■和田洋 音楽■安川午朗
視覚効果スーパーバイザー■小林真吾
監督■成島出

■平成元年、港町の市民病院に赴任した敏腕外科医が国内初の脳死肝移植に挑む姿を、アシストするシングルマザーの看護婦の視点から描いた異色作。最近、加藤正人の脚本に外れなしという感触を持っていたので、劇場で観たかったのだが、見逃していたもの。監督は「八日目の蝉」でも実力のほどを示した成島出。実際、よくできた脚本で、そもそも漫画っぽい主人公の外科医のキャラクターを直接描くのではなく、地に足の着いた生活人としての看護婦の視点から語ってゆく工夫は褒められてよい。

■個人的には堤真一は苦手なのだが、ここでは力が抜けた感じを出して、違和感がない。狂言回しではあるが、優れた演技を見せるのが夏川結衣で、成島出の「油断大敵」でも上手かったが、本作でもその実力をいかんなく発揮している。加藤正人の脚本が秀逸なのは、この二人を恋愛関係にしなかったことで、近年のテレビ局制作の邦画にありがちな安易なベタベタ感は排除されている。

■ただ、柄本明の市長とか、大学病院から派遣されている医師の生瀬勝久の戯画化は非常に漫画的で、医療業界のメカニズムのリアリティはうまく盛り込まれてはいない。「白い巨塔」のようなリアリズム路線では、全くない。というか、それをリアルに描いてしまうと病院の協力が得られないので、敢えて漫画的な表現で逃げたとみるのが適当なのだろう。

■それでも外科手術のプロセスを克明に、ストレートに描いてみせたのは意欲的で、グロではなく、外科手術のチームワークの手際の鮮やかさとか、移植した肝臓に血が通う人体の不思議さといった演出意図が的確に反映されている。成島出の演出は「八日目の蝉」に比べると編集のテンポが良い。「八日目の蝉」はいくらなんでも長すぎ。

■製作は東映テレビ朝日木下工務店ほか、制作は東映東京撮影所。正真正銘の東映映画です。

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