きっと彼らならこういうね。ウクライナに平和を!『花の特攻隊 あゝ戦友よ』

基本情報

花の特攻隊 あゝ戦友よ ★★★
1970 スコープサイズ 95分 @アマプラ
企画:園田郁毅 原作:川内康範 脚本:中西隆三 撮影:山崎善弘 照明:高島正博 美術:坂口武玄 特殊撮影:日活特殊技術部 音楽:池田正義 監督:森永健次郎

感想

■学徒動員された主人公(杉良)は訓練後に特攻隊に組織されるがゼロ戦の不調で生き残ると死に場所を求めて配属されたのは秋山少佐(南原宏治)率いる特攻機「桜花」部隊だった。。。

川内康範原作で贈る、日活末期の戦記大作。とはいうものの、さすがに製作規模は小さく、大掛かりな舞台装置は登場しない。基本的に特攻隊映画は戦闘機のモックアップにはカネがかかるが、美術装置はそれほど嵩張らない。本作のユニークなのは、東宝東映の戦記映画と異なり、日活らしく歌謡映画になっていることで、杉良が猪俣公章作曲の歌を披露する。番線としては、日活の歌謡青春映画に近いかもしれない。

■正直お話としては新しい視点がなくパッとしないのだが、脚本の構成としてはきれいにまとまっているので悪い気はしない。肝心の特攻機「桜花」がなかなか登場しないのだが、ゼロ戦での特攻作戦で大方の戦友たちが散華してしまい、それでも生き残ってしまった主人公が、第三幕でやっと南原宏治のエピソードとかみ合うという構成の妙は、なかなか悪くない。悪の黒幕としてスポット的に登場しがちな南原宏治がここでは歴戦の勇士という大役で、滋味ある人間味を見せる。

■一方、特攻機「桜花」の開発にあたってはわざわざ丹波哲郎を招聘して司令官役をあてがうのだが、たぶんどこかの会社の風洞実験場で半日くらいで撮ったのだろう。2シーン登場するが、場所は一緒だからね。

■ここで面白いのは、もともと無線誘導で敵に突入する計画が、時間不足で技術開発が間に合わないので、人間を載せましょうとサクッとカジュアルに提案するのが森塚敏演じる科学者というところ。丹波哲郎が逆に躊躇するという場面が興味深い。「馬鹿爆弾」とも揶揄される人間爆弾「桜花」特攻は軍ではなく、科学者の発案であるという描き方になっている。史実では以下の通り、曰く因縁があるが、当然軍部の意向であったはずだ。
gendai.ismedia.jp

■特殊技術にはなぜか金田啓治はクレジットされないのだが、日活末期で、すでに移籍していたのだろうか?戦闘機の離着陸や「桜花」の飛行シーンをミニチュアで描くが、インサートカット的な扱いで、特撮カットでドラマを描くスタイルではない。しかも、ホリゾントは重く曇っており、スモーク多めの、まるで中野昭慶の先取りのような映像スタイルである。実際のところ、ロケ撮影のきれいな青空と画調がマッチしていないのだが、そんな無茶な編集まで中野スタイルだよ。当然ながら、敵艦に激突するシーンは記録映像で、これは当時の東映でも同じ処理。金がかかるから仕方ないけど、ならもっと洗練された表現があってしかるべき。

■特に優れた表現ではないが、杉良と母親(中畑道子)のやり取りはそれでもちょっと泣かせる。中畑道子が演じる普通の母親像の、普通さ加減が実にリアルで演出意図を超えた説得力を生んでいると思う。一方で、第一幕にちょい役で登場するのが浜田光夫で、扱いの雑さには悲しくなる。ゲスト出演という扱いでもなく、完全に端役になっている。。。

■監督が森永健次郎なのでキャメラを動かしまくり、踊るキャメラマン(?)山崎善弘とは名コンビ。特に一式陸攻で出撃する兵士たちを和泉雅子が追う場面を手持ちキャメラでフォローした場面はさすがに秀逸な名場面だった。一式陸攻はミニチュアでも合成でもない。たぶん機影の似た自衛隊機を見立てたものだろう。

■彼らが若い命を散らしたのは、すでに2つの原爆が投下され、敗戦が決定的となったその後であった。人間爆弾特攻のその二日後に、日本は終戦を迎えたのだ。彼らは何のために敢えて死地に向かったのか。無駄と知りながら、それでも死に場所を求めて命をかけたインテリ学徒兵たちのその願いは何だったのか。

■きっと彼らは天上の世界から今現在の世界情勢を凝視しているに違いない。人間は何も変わっていないのか、俺たちの願いは結局通じなかったのか?そう問うているに違いない。

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